当事者たちが明かす「医療のウラ側」

避難生活で多発 「たこつぼ型心筋症」は“幸せ過ぎ”で発症

小説の中の話ではない
小説の中の話ではない(C)日刊ゲンダイ
40代勤務医

「エコノミークラス症候群」と共に熊本大地震で改めてクローズアップされた「たこつぼ型心筋症」。身内の死や大きな損害など強い精神的ストレスが引き金になって心臓の筋肉の収縮がスムーズにいかなくなり、左心室がたこつぼのような形になって動かなくなる病気です。

 大きな震災などの不幸に見舞われたときに発症することが知られています。ところが、この病気は「幸せ過ぎた場合」にも発症するというのです。ご存じでしょうか?

 スイスの研究者らが「Eurheart J」(2016年3月2日オンライン版)で報告しています。欧米9カ国を中心に2011年からスタートした「国際たこつぼ型心筋症」登録調査の過程で判明しました。

 それによると、2011~14年の登録患者1750例のうち、明らかに情動的ストレスが引き金になったのは465例。そのうち20例は「喜び」によって発症したというのです。

 その内容というのは、「誕生日パーティー」「息子の結婚式」「高校時代の友人との50年ぶりの再会」「結婚式」「ひいきにしているカーレーサーの勝利」「孫の誕生」「息子が会社を設立」「カジノで大当たり」「画像検査が異常なしだった」などが報告されています。

 喜びのあまり心筋症を患うなんて、まるで小説のようだと感じる人も多いと思いますが、実際にあるのです。

 そもそも、たこつぼ型心筋症の患者さんを調べてみると、カテコールアミンと呼ばれる副腎髄質ホルモン(代表的なものにアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンがある)が高値を示していることが分かっています。副腎髄質ホルモンは交感神経に支配されています。交感神経の緊張により、血中内にカテコールアミンが大量に放出されるのです。

 このカテコールアミンの過剰分泌が、微小血管や心筋の収縮を招き、心筋が“気絶”することによって「たこつぼ型心筋症」を発症させるともいわれているのです。

 ご存じのように、不安や極度の緊張によって分泌されるアドレナリン、ノルアドレナリンに対して、ドーパミンは幸福ホルモンと呼ばれ、達成感や幸せを感じた時に分泌されることが分かっています。これが過剰に分泌されることによる心筋症は他にも報告があるのです。

 もちろん、残りの465例は悲観的な出来事が発症の引き金になっています。要するに不幸にせよ喜びにせよ、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということでしょうか?