当事者たちが明かす「医療のウラ側」

ジカ熱語る前に取り組むべきは“風疹対策”ではないか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
都内の50代勤務医

 8月に開催されるブラジルのリオ五輪に関連して、南米で流行している「ジカ熱」への関心が高まっています。日本でも先月、「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」で、ジカ熱対策が話し合われたそうです。

 しかし、これに違和感を持つのは私だけでしょうか? 日本にはもっと真剣に対策を練らなければならない感染症があるのでは?

 そもそも「蚊」が媒介して発症するジカ熱は、性交渉での感染例が報告されているものの、基本的に人から人へ感染することはありません。

 症状は軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉や関節の痛みなどで、通常2~7日間続くといわれています。妊婦が感染すると小頭症の子供が生まれたり、ギラン・バレー症になるリスクが高まると報告されています。ただ、ジカウイルスを保有した蚊に刺されても8割の人は無症状で、症状が出た2割の人も重篤になるのはマレです。

 ところが、今年の2月1日に世界保健機関(WHO)が妊婦のジカウイルス感染による胎児の小頭症や神経障害に対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言して以降、日本のメディアでも「ジカ熱対策」が大マジメに語られています。

 もし、本気で感染阻止するなら、該当する地域を「渡航自粛」でなく「渡航禁止」にすべきです。WHOも「緊急事態」と考えているのならば、そういう処置をとるよう各国に働きかけるはずです。

■感染力はインフルエンザ以上

 それより、日本が問題にしなければならない感染症は「風疹」ではないでしょうか。

 風疹ウイルスによって感染するこの病気は、インフルエンザより感染力が強い。妊娠20週目以内の妊婦が感染すれば、先天性心疾患、難聴、白内障、色素性網膜症などの発症リスクが高まることが知られています。

 4~5年の周期で流行し、2004年には約4万人が感染する大流行がありました。それ以降も、数千から数万人の患者が出ているのです。これは海外から奇異に見えると思います。

 そもそも、日本は感染症の「輸出国」として知られ、日本人の駐在員や留学生は、海外で感染症が流行すると「疑いの目」で見られることが少なくありません。

 以前、日本の少年野球チームのメンバーが米国に遠征した際、「米国に麻疹を持ち込んだ」と大騒ぎになったことがありました。

 もちろん、ジカ熱対策も大切でしょう。しかし、日本で毎年のように流行している風疹対策をきちんとやることも、真剣に考えるべきではないでしょうか?