驚異の回復例も 子供の「視力低下」抑制に3つの新技術

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「えっ、そんなに目が悪かったの?」――。学校の春の健康診断で子供の視力低下を指摘され、驚いた人も多いのではないか。視力が悪いと、メガネやコンタクトが必要になり、手間やお金がかかるだけではない。パイロットや警察官など、一定の視力が必要とされる職業に就けなくなる恐れもある。わが子の近視を抑制するにはどうすればいいのか? 「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長に聞いた。

 子供の視力低下は驚くべき速さで進んでいる。平成27年度学校保健統計速報によると、裸眼視力1.0未満の子供の割合は小学校で30.97%と過去最悪を更新。中学54.05%、高校63.79%と増加傾向にあるという。

「近視の原因に遺伝的要素があるのは確かですが、どの遺伝子がどれだけ影響しているかは不明です。ハッキリしているのは、勉強など日常生活で近くのものを見続ける機会が増えた影響が大きいこと。テレビゲームやスマホなど、電子機器画面の影響も無視できません」

 手元で強い光を放つ電子機器が目に悪いのは当たり前だが、平面の絵や画像を立体的に見せるため、点描で影をつくっていることも問題だという。

「曇ったメガネをかけているのと同じで、目には曖昧に見えるため、より良く見ようとして、目の中の筋肉を緊張させてしまうのです。ヒトは物を見るために眼球の中のレンズ(水晶体)が膨らんだり、伸びたりすることで焦点を合わせます。このレンズを動かす筋肉が毛様体筋で、これが過度に凝り固まった状態が仮性近視です。テレビゲームなどの電子機器は、常に毛様体筋の緊張を強いているのです」

 仮性近視の段階なら、「ミドリンM」などの点眼薬や「ワック」と呼ばれる両眼視検査機器による訓練での視力回復も可能だ。しかし、眼球が前後に伸びる軸性近視になると、視力は戻らない。

「視力が固まる30歳くらいまで、どんどん視力低下が進んでいきます。そんな中、注目されているのが、オルソラケトロジーです」

■角膜表面の形状を変化させる治療法

 これは特殊なコンタクトレンズで角膜表面の形状を変え、乱視や近視を矯正する治療法だが、公的健康保険は利かない。

 一定の装着時間が必要で、就寝時に使われるため「ナイトレンズ」などと呼ばれている。夜間6時間以上装着することで昼間はメガネなしで過ごすことが可能だ。0.1以下の人が1.0以上の視力を取り戻した例も報告されている。

「日本コンタクトレンズ学会が定めるガイドラインでは、20歳未満の使用は推奨されていません。しかし、国外では近視の進行が速い子供の方が効果があるといわれており、注意して使えば小児でも使用が可能です」

「コンタクトレンズはちょっと」という人は、子供用の遠近両用レンズ(MCレンズ)を用いたメガネを使うのも手だ。

「3年間使った子供は近視の進行を15%減らした、との報告が国際的に権威ある医学雑誌に掲載されています。最近は、さらに近視の進行を30%減らすというMyoVisionレンズの開発も進められています」

 点眼薬による新たな近視進行抑制法も、眼科医の間で関心を呼んでいる。

「低濃度のアトロピンです。以前から眼軸長を抑制するなどの近視抑制効果が知られていましたが、毛様体筋などを弛緩させて瞳孔を長時間開くため、患者さんがまぶしさを感じるなどのデメリットがあると考えられていました。これを100倍に薄めて使うのです。東京医科歯科大学では小学生対象の治験が始まっています」

 放っておくと、子どもの近視は進行し、さらに強度近視になれば最悪、失明に至ることもある。早めに医療機関に相談することだ。

関連記事