どうなる! 日本の医療

死因究明システムの強化が必要

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近、テレビドラマ等で取り上げられることの多い監察医。地方自治体が死体解剖保存法に基づき、病気や事故で亡くなった死体、死因不明の異状死体を調べ(検案)、死因を特定する医師のことだ。検案で分からなければ解剖で死因を究明する。

「死因究明は犯罪を見逃さないためだけでなく、公衆衛生向上、次世代の衛生行政のためにも重要です。ところが、この監察医制度がピンチを迎えている。これは大問題です」

 こう言うのは東京都監察医務院の福永龍繁院長だ。

 かつて監察医制度は、全国7大都市に設置されていた。しかし、いま実質的に機能しているのは東京23区、大阪市、神戸市の3都市のみ。

 地方財政の逼迫と、「他の医療行政と比較し、死因究明の優先順位は低い」という厚労省の無理解が理由だという。

「そのため、死体を診て死因を判断するプロである監察医の見方とは異なる死因で処理されるケースも多いのです」(福永院長)

 監察医制度がない地域では、警察嘱託医等が変死体について検案する。ところが解剖に至るケースは少ない。変死体の死因のほとんどが「心不全」となる事態も起きているという。

 阪神・淡路大震災時も、一般の医師が焼損した死体について付けた死因の大半は「焼死」だった。監察医なら、不完全燃焼ガスで死んだ後に焼けたか、建物倒壊で身動きできないまま焼死したかを見極める。それにより、震災対応としてどんな家屋が必要かが分かり、次の大震災の備えになるという。

 実際、監察医の「死因特定」が予防に役立ったケースがある。熱中症だ。東京都監察医務院では、熱中症の高齢者の死因特定により、「エアコン使用が少ない」「水分補給が少ない」ことを探り当て、具体的な熱中症予防法を見いだした。

 日本の脆弱な監察医制度と比較して、海外の監察医制度はどうか。米国はメディカル・エグザミナ―(ME)制度が各州ごとに完璧に確立されている。イギリスはコロナ―制度として、裁判所と同じくらいの権限を持つ。

「地方自治体任せの日本とは大違いです。例えば東京都監察医務院では、13人の常勤医と56人の非常勤医で年間1万4000人のご遺体を検案しています。急速に進んでいる超高齢社会で、今後、遺体はさらに増える。地方自治体それぞれに予算の制約がある中、全国でしっかり制度を確立するためには国の支援が必要なのです」(福永院長)

 予算不足というと莫大な金額をイメージするが、福永院長によると、国民1人あたり年間200円の支援で、国中に監察医制度を張り巡らせることが可能だという。

「死因がきちんとしていないと、日本人の死因統計も不正確になる。それは、未来の日本の医療を危うくすることにつながります。『死体の検案、解剖は人の受ける最期の医療』であり、『一人一人の死を万人の生につなげる』大事なものです。これは、国がきちんとやるべき仕事ではないでしょうか」(福永院長)

 それとも国は、国民の死因を完全に明らかにすると、“不都合な真実”に行き当たることになるとでも考えているのだろうか?

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。