Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【小倉智昭さんのケース】膀胱がん オシッコで早期発見

小倉智昭さん
小倉智昭さん(C)日刊ゲンダイ

「そんな短期間で手術から復帰できるの?」と思われた方も少なくないでしょう。膀胱がんを発表したキャスターの小倉智昭さん(68)はすでに手術を受け、来週からフジテレビの情報番組に復帰する見込みです。休養期間は1週間ですから、一般の方が疑問に思うのは無理もありません。

 膀胱がんは男性に多いがんで、俳優・菅原文太さん(享年81)は2年前にこのがんで亡くなっています。07年、別の病院で勧められた膀胱の全摘手術が嫌で私の外来にセカンドオピニオンを求めにこられました。

 当時、文太さんの病期はステージ2で、治療は手術による膀胱全摘が主流。膀胱を全摘したら、尿をためるスペースがなくなり、“コンビニ袋”のようなもので代用することに。袋に尿がたまるのが嫌で水分摂取を制限される方もいます。文太さんも当時は軽いうつ状態に見受けられたように思います。

 5年生存率はステージ1が94%、ステージ2が87%ですが、膀胱全摘の代償は大きい。そんな状況から、一般の方は休養1週間で手術を済ませるスピードに驚かれるのでしょうが、その秘密は早期発見にあります。

 小倉さんは昨年末から微量の血尿に気づき、全身をくまなく検査した結果、膀胱への内視鏡検査でがんが見つかったそうです。

 血尿や排尿時の痛み、排尿回数の増加などが膀胱がんの特徴で、痛みがなく、血尿もわずかなこともありますが、小倉さんはトイレでのわずかな変化を見逃さなかったのが幸いし、早期で見つかったのでしょう。

 ステージ1なら内視鏡でがんを切除できるため膀胱を温存でき、治療期間が1週間ほどで済むのです。全摘手術が標準治療のステージ2との決定的な違いがそこ。俳優・黒沢年雄さんも08年に内視鏡手術で膀胱がんを克服しています。

■リスクは喫煙とコーチ―

 では、膀胱がんのリスクは何かというと、喫煙が一番。国立がん研究センターの研究では、吸わない人の発症リスクを1とすると、喫煙指数(箱×喫煙年数)が大きくなるほどリスクが増加する傾向で、50以上は2・2倍に上ります。

 たとえ禁煙しても、やめてから10年未満では1.8倍ですから、リスクはあまり下がりません。小倉さんは、03年に禁煙するまで毎日3箱吸っていたようですから、過去の喫煙と膀胱がん発症との関連は否定できないでしょう。

 もう一つ見逃せないリスクが、コーヒー。たばこを吸わない人の場合、ほとんどコーヒーを飲まない人の発症リスクを1とすると、毎日1杯以上飲む人は2.2倍。

 膀胱がんを予防するには、たばこを吸わないこと。吸っている人はなるべく早く禁煙し、コーヒーもなるべく控える。そうした上で、1年に1回は健康診断で尿検査を受け、血尿の有無をチェックするのです。

 実は、ステージ2でも膀胱を温存できる可能性があります。文太さんは、膀胱に直接抗がん剤を注入する動注化学療法と放射線治療を組み合わせて膀胱を温存。14年に亡くなるまで7年間、元気に生活されました。ステージが進んでも膀胱を温存できる可能性はありますが、早期発見に越したことはありません。尿検査は必須です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。