手術で“あり得ない位置”に…「乳房再建」にトラブル急増中

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「ちびまる子ちゃん」の“お姉ちゃん”役を務めていた声優が、51歳の若さで乳がんで亡くなった。乳がん患者は近年増加しているが、妻や彼女のために男性も押さえておきたいのは、乳房摘出後の「乳房再建」トラブルだ。現状を聞いた。

 乳房再建手術で、こんな不自然な胸になってしまった――。

「この3年、再建のやり直しを求めて来院する患者さんが非常に増えました」と話すのは、乳房再建手術のスペシャリストである「ブレストサージャリークリニック」の岩平佳子院長だ。「この3年」は、乳房再建手術が保険適用になって以来の期間を指す。

 乳房再建手術は、乳房全摘後に「エキスパンダー」という組織拡張器を乳房で膨らんでいた場所に入れ、皮膚を伸ばす。そして一般的に8カ月後、人工物あるいは自家組織で乳房を再建する。

 自費だった乳房再建手術が保険適用になったのは2013年。満を持しての適用だったが、今はむしろマイナスの事態も引き起こしている。

 最大の理由は、技術も経験も「乳房をきれいに再建したい」という熱意もない形成外科医が「乳房再建手術なんて簡単」と、こぞって乳房再建手術を始めたことにあるという。

「形成外科医でも、乳房再建は専門外がほとんど。専門外の医師が安易に取り組めるほど、乳房再建は簡単ではない」

 乳がん全摘後の乳房は、乳がんの場所や進行具合、乳房の脂肪の付き具合や形、乳腺外科医の手法など、さまざまな要因が絡み、患者によってすべて違う。

■「適当なのを…」とメーカーに頼む医師

 さらに乳房再建には、「患者がどういう乳房を望んでいるか」が関係する。ブラジャーを着けた時に美しく見せたいか、水泳が趣味で水着を着た時に自然な形に見せたいかによっても、目標とする「仕上がり」が異なってくる。

「それらすべてを検討し、大きさや形が違う42種類のエキスパンダーから適したものを選び、人工物での再建なら大きさ、形、軟らかさが違う212種類から1つを選ぶ。技術、経験、熱意のどれが欠けてもできません」

 しかし現状は、未経験の形成外科医が、2時間の講義を受けただけで乳房再建手術を行う。講義では岩平院長など乳房再建手術の専門家5人が一人20分間話すが、「これだけでは到底不十分」と指摘する。

 写真を見てほしい。ある患者は、エキスパンダーの時点で形が不自然すぎると思った(左上)。担当医から「シリコーンで再建する時に調整する」と言われ、岩平院長のもとへ駆け込んできた。

「再建時に調整はできないことが多い。乳房再建手術は、どのエキスパンダーをどこに入れるかが最重要。すぐにエキスパンダーを入れ替えました」

 エキスパンダーは42種類あるのに、医師から「大中小、どれにする?」と聞かれた患者もいる。「あるだけのエキスパンダーを持ってきて適切なのを選んで」と医師に呼び出されたメーカー社員もいるという。

「教授などの肩書がある有名医師であっても、乳房再建手術のプロとは限りません」

 患者はどう対策を講じればいいのか? 岩平院長が挙げるのは、(1)乳房再建を本当に望むのか自問(2)再建したい理由を明確にする(3)それを医師に話した時、真剣に耳を傾けてくれるか(4)医師の経験数を確認し、その医師が実施した乳房再建の写真も見せてもらう。この4点が重要だという。そして、何かおかしいと思ったら、すぐにセカンドオピニオンを求める。

 トラブル回避は、患者が動かなければできない。大切な人の「もしも」の時のために、頭に入れておくべきだ。

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