医療数字のカラクリ

新薬の開発に「ランダム化試験」はなぜ重要なのか?

 治験をはじめ、臨床試験による効果の判定は、試験管内や動物実験から始まり、第1相から第3相にわたる人体実験を経て、ようやく確認されるものです。

 特に第2相以降では、偽薬を比較群として設定して、より高い科学性を担保する仕組みになっています。

 しかし、ただ偽薬の比較群を設定するだけでは、科学性を十分担保しているとはいえません。

 例えば新薬のグループの平均年齢が60歳で、偽薬のグループの平均年齢が70歳だったとしましょう。ある新薬の効果を生存率で評価した臨床試験を例に考えてみると、薬の効果がまったくないとしても、平均年齢70歳の偽薬のグループのほうで生存率が低くなる可能性が高いでしょう。いくら比較群を設定しても、年齢が違っていると生存率の違いが新薬のせいなのか年齢のせいなのかがわからなくなってしまいます。

 その問題を解決するために、新薬と偽薬を飲むグループを分ける時には何の規則性もなく、デタラメに分ける必要があります。ある一定の人数を、コンピューターで発生させたデタラメな数字をもとに、「偶数は新薬」「奇数は偽薬」というように分けるのです。この作業はランダム化、あるいは無作為化と呼ばれます。

 このプロセスにより新薬/偽薬以外の背景が揃えられ、2つのグループの違いが新薬/偽薬の違いであると、科学性を高めて判断できるのです。またこの2つは研究によって科学的な結果を得られるという点で、倫理的にも重要です。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。