天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

デメリットを克服すれば外科医は絶滅しない

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 かつては医師の“花形”といわれた外科医ですが、近年はその数が減少傾向にあります。厚労省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」(2014年)によると、医療施設に従事する医師数は約29万7000人で、そのうち外科医は2万8000人。94年に比べて2割近くも減少していて、とりわけ20代の外科医は半減している状況です。

 医学部に入学してくる最近の学生は、勉強の成績が良かったから医学部に進んだ……という人が多くなった印象を受けます。「世のため人のために、医者というなりわいに命を捧げる」といった強い志を持っている学生は少なくなりました。そうした若い学生たちに、「外科医は労働時間が長いうえに訴訟リスクも高く、内科医に比べてキツい」というイメージを持たれているので、外科医のなり手が減っているのです。

 外科医の減少を食い止めるため、いまの外科医はもっと真剣に話し合い、対策を考えなければなりません。同時に、「外科医になれば、医師としてつかめる世界が広がっているかもしれない」と思えるような夢を提示してあげることも重要です。たとえば、手術の腕が上がれば勤務先以外の外科からのオファーが増え、努力した外科医は報酬という形で報いてもらえる。四六時中、患者さんに付きっ切りというわけではない。異業種との接点も多く、見聞を広めることができる……。そうした外科医の世界をしっかり見せていくべきでしょう。

 一方で、外科医が行う手術の領域が縮小しつつあるのもたしかです。新しい薬剤の進歩などにより、内科治療の領域が広がっているためです。しかし、だからといって外科医が“絶滅”してしまうかといえば、そうではありません。

 すべてではありませんが、外科治療は基本的に根治を目指すものです。手術によって病巣を取り除く、もしくは病気になっている部分の機能を改善させ、患者さんが不安なく生活できるようにすることを目指します。

 たとえば、がんならすべての病巣を取り除く。心臓なら不具合のある部分を改善する。おのおのの臓器の病的な状態を意識しなくても生活できるようにするのが目的です。

 片や薬による治療は、根治治療というよりは症状を緩和したり、病気とうまく付き合っていくという考え方をするケースが多いといえます。もちろん、薬によって生活に支障を来さないくらい症状が改善し、全身を痛めつけるような副作用がないことがハッキリしていれば、薬による治療もひとつの選択肢です。しかし、根治を目指すのであれば、やはり外科治療が欠かせない状況は続いていくでしょう。

 さらに、手術のデメリットである「患者さんへの負担」を克服し、患部に対する改善効果のみが期待できる方向に進化していけば、外科治療はなくなりません。前回もお話ししたように、手術支援ロボット「ダヴィンチ」や、AI(人工知能)を利用したロボット手術がより進化していけば、なおさらです。

■最先端の手術は若い世代に向いている

 お腹や胸に小さな穴を開けるだけで患部にダイレクトにアプローチでき、その部分を除痛するだけで病巣を取り除いたり、機能を回復するような処置を行い、そのままスムーズに機器を回収できる――。そうした先端技術を利用した手術が、危険なく、時間もかからず、手技にも問題ないように行えるようになれば、外科治療の“価値”が下がることはありません。

 そして、そうした最先端のロボット手術は、若い世代にマッチしたものともいえます。内視鏡を使ってモニターを見ながらアームを操作するため、小さな頃からテレビゲームやスマートフォンに親しんできたことで手先が器用な若い世代が、優秀な外科医になれる可能性があるのです。

 外科治療の未来は決して暗いわけではありません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。