Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【早期がん】末期とはこんなに違う医療費と生存率

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 キャスターの小倉智昭さんが、膀胱がんの手術から復帰。そのスピーディーな対応が話題になっています。がん治療というと、長期入院を余儀なくされるイメージを持たれる方もいますが、今やそうではないのです。小倉さんのケースは、その典型でしょう。

 厚労省の2014年患者調査によると、がん患者さん全体の平均入院日数は18・7日。02年の3分の2に減っています。早期ならほぼ100%治る胃がんや大腸がんは、内視鏡による日帰り手術も可能です。

 早期がんの時期は大体1~2年。この間にがんを見つけることができれば、体に負担の少ない治療法を選ぶことができ、治る可能性がその分アップ。すべてのがんの治癒率は約57%ですが、早期なら約9割が完治するのです。

■医療費で大差出る「早期がん」と「進行がん」

 早期がんと進行がんとでは、医療費が大きく変わります。たとえば、ステージ1の非小細胞肺がんで、肺の一部を切除する手術の医療費は年間約191万円。ステージ4になって、抗がん剤治療を6コース受けるとすると、約3・4倍の年間648万円にハネ上がります。

 サラリーマンの方なら自己負担は3割、高額療養費制度で実際の負担額はもっと少なくなるとはいえ、その差は大きい。がんを早期で見つけるメリットは、医療費の点からも大きな意味があるのです。

 毎年約100万人ががんになりますが、そのうち3人に1人は20~64歳の働く世代。現役世代で亡くなる方は、半数ががん。がんは高齢者を苦しめる病気ではなく、現役世代の病気ということです。それだけに早期に発見して、体の負担が少ない治療を受け、高い確率で社会復帰することが、家族にも家計にも大切なのです。

 広島県は、がん検診が企業に与える経済的な影響を調査。企業ががん検診を実施して早期がんを見つけたケースと、実施せずに末期で見つかったケースを比較した結果、早期で見つけると、差し引き405万円の遺失利益を取り戻す効果があることが分かりました。

 さらに従業員の生存率は、早期が99%で、末期が15%。84ポイントもの開きがあったのです。企業にとっても、がんを早期発見するメリットはかくも大きい。

 小倉さんはわずかな血尿に気づき、精密検査を受けたそうですが、一般に早期がんは自覚症状が乏しい。症状を頼りにすると、発見が遅れやすいので、自治体のがん検診や企業の健康診断をうまく活用しながら、定期的な検査を受けるのが無難です。

 特に大腸がん、子宮頚がん、乳がんは、検診の有効性が国際的に証明されている“検診向きのがん”。受診しないのは損です。これに加え、肺がんと胃がんの検診も1年に1回、受けておくのが安心です。

 これら5つのがんは検診によって、死亡率が下がることが分かっています。小倉さんのケースを教訓に、検診を受けていない方は、ぜひ受けて下さい。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。