健康は住まいがつくる

塩化ビニール壁紙 海外では生殖異常をきたす恐れで廃絶も

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで、木材を多く使った住居には、湿度調節や木の香りなどの健康効果が高いことを取り上げた。しかし、せっかくの木造住宅であっても、日本の住宅の多くはその利点が生かされていない。日本の住宅の大きな問題点を「スズキ建築設計事務所」(千葉県柏市)の鈴木明会長が言う。

「日本の住宅の内装は、ほとんどがコストの安い塩化ビニール壁紙(クロス)を使っています。玄関から廊下、リビング、寝室、トイレ、壁、天井までビニール壁紙で覆われていて、一般の方々がフローリングと思っている床も、多くは木目印刷の樹脂シートです。言い換えれば、日本人は大きな塩化ビニールの袋の中で生活しているようなもの。そんな住環境にあるのは、先進国の中でも日本くらいでしょう」

 日本で内装材といえば、ホワイト系のビニールクロスが普通だと思われていて、それこそが問題だという。欧州へ出かける機会が多い鈴木氏によると、欧州では内装にビニールクロスを使うことはなく、特に病院や学校などの公共施設では使用できなくなっているという。代わりに使われているのが、木の内装材や塗装、紙クロスなどの呼吸をする素材。ビニールクロスの何が悪いのか。

「ビニールクロスは湿気を吸ったり出したり、呼吸をしないので結露しやすく、冬場は暖房でカビが発生します。そのカビの胞子が室内に漂い、喘息やアレルギーの原因になります。しかし、それよりも私が問題視しているのは、多くのビニールクロスには、可塑剤(=加工しやすくするための添加物質)としてフタル酸エステル類のジオクチルフタレート(DOP)が含まれていることです。この有害物質は生殖に異常をきたす環境ホルモンとして知られていて、動物実験では発がん性も報告されています」

 鈴木氏が懸念するのは、室内で揮発したDOPを吸いながら生活する住人の健康への影響だ。欧州ではDOPの使用や塩化ビニール製玩具の廃絶を打ち出している。一方、日本では、環境省が2003年6月に9種類の可塑剤について、「内分泌かく乱作用は認められない(=環境ホルモンではない)」とする研究結果を発表している。

「建築家として、少しでも有害性の疑いがある素材は使うわけにはいきません。当社では内装にビニールクロスは一切使わず、和紙クロスや布クロスを使用することを徹底しています」

 すでにビニールクロスの内装が施されている家の内装も、リフォームで和紙や布のクロスに張り替えることは可能だ。ビニールクロスの上から土や石灰を使った左官建材を塗る対処法もあるという。

 見た目がキレイな内装が健康的だとは限らない。住宅は一生もの。昔ながらの和の天然素材を見直してみる必要があるかもしれない。