看護師直伝 がん治療と笑顔で付き合う

がん進行で患者苦痛 「スピリチュアルペイン」の緩和策は

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「自分でトイレにも行けないなんて……。人さまに迷惑かけてまで生きていたくないよ。早く楽になりたいなぁ」

 60代後半のAさんは私におっしゃいました。だれもが、他人の手を借りなくてはいけなくなったら恥ずかしい、申し訳ないと感じるものだと思いますが、それが一時的であれば我慢や妥協もできます。

 しかし、がん患者さんにとって、自分でトイレに行けなくなり、人の手を借りたりベッド上で横になったまま排泄をしたりするのは、手術や治療に伴う急性症状や活動の制限でない限りは、“生ききる”までずっとその状態が続くことを意味します。

 私たちは小さい頃から「ひとりでできる」「自立する」ことを教わります。社会人になって働いたり、家庭を守ったりすることで、“自分のことは自分でできる”、社会に少なからず貢献していると思える「生産性」こそが、私たちを私たちたらしめています。

 ところが、がんになると、少しずつ「自立」が脅かされます。治療の過程で伴うこれらの苦痛は、症状の緩和や周囲のサポート、そして自らが持っている対処方法で軽減することも少なくありません。

 一方、残された時間が短くなるに従って不可逆的な身体変化が伴い、にっちもさっちもいかない状態となる。それが冒頭のAさんの言葉のような「もう終わりにしたい」「生きている意味がない」へとつながります。これが「スピリチュアルペイン」というものです。このような苦痛はどのように緩和すればよいのか、次回考えてみたいと思います。