薬に頼らないこころの健康法Q&A

急増する10代の自殺対策 「人生には別道もある」を伝える

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 このような立場からいえば、若年者を自殺させない最良の方法は、「人生には別の道もある」と伝えることだと思います。かつて、ニーチェは「自殺を思うことは強い慰謝剤である。これによって数々の悪夜が楽に過ごされる」(「善悪の彼岸」)と言いました。

 ここでニーチェは「自殺の勧め」を行っているわけではなく、むしろ、“空想の世界で自殺を考えてみれば、現実の世界を生きることが楽になる”と述べたにすぎません。自殺は実際に敢行しなくても、空想しさえすれば楽になるといったのです。

 しかし、私は、空想の世界だとしても、何も自殺まで考える必要はないと思っています。むしろ、現実の世界で「他にも道がある」と考えればいいのです。

■学校は命と引き換えに行くほどの場所じゃない

 たとえば、不登校の生徒がいるとします。この生徒に最初に話すことは、「不登校で死ぬことは絶対にない」ということです。学校なんか行かなくたって死にはしません。もちろん、高校はともかく、中学は義務教育ですから行ったほうがいい。でも、行けないからといって、学校なんか命と引き換えに行くほどのところではありません。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。