肥満より死亡率が上昇 高齢者の「低体重」はこんなに危険

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢になると、多くの人は体重が減っていく。現代では、70歳前後から体重が減少に転じていくと報告されている。だが、年だから仕方がないと放置して低体重が進むと、命を縮める深刻な病気を招きかねない。

 WHO(世界保健機関)の基準によれば、BMI値(体重キログラム÷身長メートル÷身長メートル)「18.5以下」が低体重とされている。高齢者が低体重になる要因はいくつもあり、加齢によって代謝が衰えたり、活動量が減ることによる食欲の低下、配偶者との死別による独居、持病や投薬の影響などさまざまだ。

 一般的に、「太っているよりは痩せている方がいい」と考えている人が多い。肥満は高血圧、糖尿病、心血管疾患などのリスク因子として知られているからだ。しかし、欧米でもアジアでも、「低体重は過体重より死亡リスクがアップする」という研究報告がある。

 アジアの研究では、50歳以上の人が低体重(BMI18.5以下)の場合、死亡リスクが過体重(BMI23.0~24.9)の2.9倍に上った。欧米の研究では、低体重(BMI20未満)のグループは、標準体重(BMI20~24.9)のグループに比べて総死亡率が1.37倍、心血管疾患による死亡率は1.45倍にアップしている。

 東邦大学医療センター佐倉病院循環器科の東丸貴信教授は言う。

■栄養状態が悪く脳心血管疾患を起こしやすい

「低体重の人は、栄養状態が悪化しているケースが多いと考えられます。栄養状態が悪いと、タンパク質、ミネラル、ビタミンといった筋肉や組織に必要な栄養素も不足します。心臓は主に心筋という筋肉細胞でできている臓器です。低体重でそうした栄養素が不足すると、心臓や血管そのものの機能が低下してしまい、貧血も相まって心不全などを起こしやすくなるのです。また、栄養状態が悪化してカリウムやマグネシウムなどの電解質が不足すると、不整脈を起こす原因になります」

 食欲の低下などによって低体重になり、血清中にあるタンパク質の一種「アルブミン」が不足することも、脳心血管疾患のリスクをアップさせるという。

「アルブミンは、血管内外の水分のバランスを調整する役割があります。アルブミンが不足すると、水分が血管内から外に排出されてむくみが出るだけでなく、血管内脱水になって血液の成分が濃くなります。血液の流れが悪化して血栓もできやすくなるので、脳梗塞や心筋梗塞のリスクをアップさせたり、出血しやすくなって脳卒中を引き起こす要因にもなります」(東丸教授)

 低体重には、命に関わる心臓や脳の病気につながる要因がいくつもあるのだ。

「そもそも、筋肉と脂肪には高齢者を病気から保護する効果があり、どちらも減っている低体重の人は、それだけでさまざまな病気にかかりやすくなってしまうという報告があります。さらに、低体重で栄養状態が悪い人は、免疫力が低下して肺炎、結核、帯状疱疹などの病気にかかりやすくなる上、回復力が遅いことも死亡リスクをアップさせてしまうのです」(東丸教授)

■認知症につながる可能性も

 また、米国の研究では、中年期から高齢期にかけて10年ごとに体重が約5キロ減少すると、知的能力が低下するリスクが24%アップすると報告されている。高齢になって体重が大きく減ると、記憶力や思考力が低下し、認知症につながる可能性があるという。

 食欲がなくて食べられないという高齢者に、食事を食べてもらうのは簡単ではない。

 まずは、低体重にならないように、食べることが命に直結している点を意識してもらいながら、“食べる楽しみ”を取り戻せるように、周囲が一緒に取り組む。これが低体重を防ぐ第一歩になる。

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