当事者たちが明かす「医療のウラ側」

X線検査に“非効率”の声も 胃内視鏡検査が普及しないワケ

病院側にとってどちらが都合がいいか
病院側にとってどちらが都合がいいか(C)日刊ゲンダイ
都内の50代勤務医

 厚労省は市区町村が実施している「胃がん検診指針」を今年4月に改訂し、患者さんは新たに内視鏡検査も選択できるようになりました。

 これまでは、バリウムを飲んだ後に行う胃のX線検査だけでした。患者さんは、水に溶けると炭酸ガスを発生する発泡剤を飲んで胃を膨らませ、バリウムを飲んで行う検査です。

 レントゲン透視台に横になってX線撮影を行うのですが、患者さんはレントゲン技師の指示に従い、あおむけやうつぶせになるなど、体位を変えなければなりません。そのため、面倒くさいと考える人は少なくありません。しかも検査後、バリウムを排出するのに痔を悪化させたり、便秘になったりする恐れがあります。結果、市区町村の胃がん検診は評判が悪く、受診者は思うように増えていません。

 そもそも、この胃のX線検査は被曝量が多く、そのためにがんができる可能性もささやかれている上、内視鏡検査に比べて精度が高いとはいえません。仮に問題が見つかったら、内視鏡検査で確定診断するのですから、最初から内視鏡検査を行う方が効率的です。そのため多くの医師は内視鏡検査を受けています。

 ならば、市区町村の胃がん検診は内視鏡検査が主流となり、受診者が急に増えるのでしょうか。恐らくそうはならないでしょう。

 理由は、胃のX線検査の方が病院側には都合がいいからです。例えば検査回数です。新たな指針によると、「X線検査は40歳以上で年1回、一方、内視鏡検査は50歳以上で2年に1回の受診」となっています。内視鏡検査だと、回数は半分に減ってしまいます。

 しかも、X線検査は放射線技師のみでの撮影が可能ですが、内視鏡検査は医師が直接対応しなければなりません。X線検査の方が1人当たりの保険点数が低いとはいえ、短時間で多くの患者さんをこなせるので、病院側は実入りがいいのです。

 さらにいえば、胃のX線検査は、鉛で覆われた専用の部屋やX線装置、透視台などの大掛かりな装置に加え、検査のためのバリウム、検査後の下剤などが必要です。胃のX線検査のために雇われた検査技師も少なくありません。それだけ多くの関係者が、この検査で“食べている”のですから、簡単にやめられないのです。

 結果的に、患者さんは無駄の多い、非効率な検査を受けることになるのです。