筋力低下は早死を招く 中高年はダイエットより“握力強化”

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 健康診断をキッカケに「ダイエット」を決意した中高年も多いのではないか。しかし、中高年の安易なダイエットは知らず知らずのうちに全身の筋肉量の減少を招き、新たな病気やケガを呼び込むことになりかねない。ならば、定期的な握力計測で筋力をチェックしてはどうか。

 商社に勤める中村義男さん(仮名、55歳)は健康診断で、医師からダイエットするよう、強く勧められた。体重が105キロとわずか3年余りで10キロも増えたからだ。

「過去1~2カ月の血糖値の平均を表すヘモグロビンA1cも6.5%を超え、超音波検査で肝臓にびっしり脂肪がついているのを確認しました。医師からは“死ぬ気ですか”と脅されました」(中村さん)

 運動嫌いな中村さんはすぐに、糖質制限や食事回数を減らす過激ダイエットを思い立った。しかし、栄養・生活指導の看護師から「中高年が食事制限に頼る過激なダイエットをすると、筋力減少に拍車がかかり、健康を損なう危険があります。それを避けるため、ダイエットと並行して定期的に握力を測ってはどうですか」とアドバイスされたという。どういうことか? サラリーマンの病気に詳しい、弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「握力は単にモノをつかむ力というだけでなく、全身の筋力の代表的指標となり得るものです。握力の強い人はある程度、全身の筋力も強いと考えられます。これが衰えると病気やケガにつながり、高齢者は転倒や骨折から寝たきりリスクが高まる恐れがあるのです」

 握力が強いほど長生きであることは、厚生労働省の研究班が福岡県久山町在住の2372人を対象に行った研究でも明らかだ。男女別に握力が弱い順から4組に分けて死亡原因との関係を20年間追跡調査したところ、握力が強いほど死亡リスクが下がる傾向にあり、最も握力の強い組(男性47キロ以上、女性28キロ以上)の死亡リスクは最も弱い組(男性35キロ未満、女性19キロ未満)よりも約4割も低かった。同様な研究は他にもあって、握力が健康長寿のバロメーターになり得ることが世界中から報告されている。

■心筋梗塞や脳卒中リスクもわかる?

 驚くのは握力の強い人は心臓や血管の病気のリスクも低いこと。昨年5月、世界的に権威のある医学雑誌「ランセット」はカナダのマクマスター大学の研究を掲載している。17カ国の家庭を対象に握力測定を行い、その後4年近く死亡率と死亡原因を調べたところ、握力が5キロ減少するごとに全死亡率は16%高まり、心筋梗塞が7%、脳卒中は9%増えたという。

「久山町研究でも同じような結果が報告されています。心臓の機能維持には末梢の筋肉の力が重要で、筋力があると末梢循環も良くなります。さらに、血管も広がり、血圧も下がってきます。動脈硬化や血栓も起こりにくくなるのです」(都内の循環器科医師)

 では、握力はどのくらい必要なのか? 文部科学省が毎年公表している「体力・運動能力調査」(平成26年度版)によると、男性(女性)の平均握力は50~54歳で46.31キロ(28.04キロ)、55~59歳で44.90キロ(27.51キロ)、60~64歳で42.87キロ(26.01キロ)、65~69歳で39.77キロ(24.72キロ)、70~74歳で37.46キロ(23.75キロ)だ。

「いまは握力が正しいダイエットのための指標になるという報告はありません。しかし、全身状態をよくしたうえで、老化を防ぐ運動と食事を組み合わせると握力が増加することが分かっています。その意味では握力をダイエットの指標にするのもアイデアかもしれません」(前出の林院長)

 ただし、大事なのは握力が衰えないような日常生活を送ること。握力を鍛えたからといって長生きするというものではない。覚えておこう。

関連記事