リスクは健康な人の約3倍 糖尿病が「難聴」を引き起こす

リスクは健康な人の3倍
リスクは健康な人の3倍(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病の合併症といえば、「腎症」「網膜症」「神経障害」が有名だが、最近の研究で注目されているのが「難聴」だ。

 食生活の乱れや運動不足などで発症する2型糖尿病の患者の多くが難聴を併発し、聴覚障害になるリスクが高いという。騒音の少ない環境で過ごす人でもこの傾向は変わらず、健康な人の約3倍との報告もある。難聴は「うつ病」や「認知症」をも引き起こす。あなたは大丈夫?

「2型糖尿病患者は難聴を合併するリスクが高い」とする論文を掲載したのは、国際的な糖尿病医学雑誌「Current Diabetes Reports」(2016年1月号)。

 米ニューヨーク州立大学の研究者らが信頼できる複数の研究を分析したところ、糖尿病と難聴との関連性が認められたという。

「同様の研究はほかにもあって、ここ10年ほど、2型糖尿病患者の難聴については、世界中の糖尿病研究者の関心の的になっています。最近報告された研究のうち、最も軽いケースで調査対象となった糖尿病患者の44%、深刻なケースで69・7%が難聴を患っていました」

 こう言うのは、糖尿病専門医で「AGE牧田クリニック」(東京・銀座)の牧田善二院長だ。

 日本でも新潟大学医学部の研究チームが「糖尿病と難聴」について、米国の医学雑誌に報告している。

 合計2万194人を対象にした13件の研究論文を分析したところ、ほぼすべての研究で糖尿病と聴力障害との関連性が明らかになったという。糖尿病の人は、そうでない人より聴力障害リスクが2.15倍高く、60歳未満ではそのリスクは2.61倍に上昇した。

「驚かれる人もいるかもしれませんが、これらの数字は、実態より低く見積もられている可能性があります。糖尿病による難聴の特徴は、多くが中程度で、60歳未満の若い人に多い。彼らには“難聴はお年寄りの病気”というイメージが強い。聴力が衰えても、それを糖尿病と結びつけて考えておらず、潜在的な患者数はさらに多いかもしれません」

■新たな病気を呼び起こすことも

 それにしてもなぜ、糖尿病の人は難聴になりやすいのか?

「難聴は大きく2つに分類されます。外耳や内耳の音を大きくして伝える伝音機構の障害による『伝音難聴』と、内耳の感覚細胞から大脳までの音を感知する神経の障害による『感音難聴』です。糖尿病による難聴は、内耳の神経や血管が糖尿病によって損なわれるために発症するとみられていることから、感音難聴だと考えられています」

 音はまず、耳の穴(外耳道)で増幅され、それをリンパ液の波動として感じとる器官(蝸牛)へ送られる。これを「有毛細胞」が電気信号に変え、「ラセン神経節」(蝸牛の真ん中にある神経細胞)に伝える。最後に聴神経を介して、脳に伝わるというわけだ。

 ちなみに糖尿病患者の検視研究では、「内耳動脈硬化」「血管条の毛細管肥厚」「ラセン神経節の萎縮」などが報告されているという。

 このことから、糖尿病の人は診断当初、正常な聴力があったとしても、年数を重ねるうちに難聴が進行していく可能性が高い。

 恐ろしいのは、こうした糖尿病性難聴が新たな病気を呼び起こすかもしれないことだ。

「注目されているのは、うつや認知症です。聴力が低下すると上手にコミュニケーションが取れなくなり、人との関わり合いを避けがちです。その結果、不安感や孤独感が強くなり、うつ病を発症してしまうことがあります。また、耳からの刺激が減ることで、脳の認知機能が衰えて認知症になってしまう可能性が高まるのです」

 聴力の低下から糖尿病を発見する場合もある。不安な人はまずは聴力検査をしてみることだ。

関連記事