医療数字のカラクリ

“3カ月の延命”の是非 新薬は副作用の点でも優れているか

 新しい抗がん剤「ニボルマブ」(オプジーボ)の話題を続けます。平均3カ月の延命効果があるということでしたが、副作用が強い場合は「寿命が延びた3カ月は結局、寝ているだけ」ということです。それでは困ります。

 そこで、副作用のデータについて見てみましょう。全体では、標準的な抗がん剤「ドセタキセル群」で88%、「ニボルマブ群」で69%と、両群とも高い割合で副作用が見られています。抗がん剤治療においては、副作用を経験しない人のほうが少ないのです。

 ただ、この中には検査所見のみの異常で、全く症状がないような軽症なものも含まれます。重症な副作用で2つのグループにどんな差があるかどうかも見てみましょう。

 この論文では副作用を5つのグレードで判定しています。入院が必要となったり、日常生活に重大な制限が生じる副作用(グレード3)と、生命を脅かす危険があり、即座に治療を必要とするような副作用(グレード4)を合わせた重症なものでは、ドセタキセル54%に対し、ニボルマブ10%と格段に少なくなっていることが示されています。

 新薬ニボルマブは、単に3カ月の延命効果があるだけでなく、日常生活を制限するような重大な副作用や、命に危険を及ぼすような副作用も大幅に少ないというのが論文結果です。

 患者さんの「もう一度、どこか思い出の場所にでも1~2カ月旅行に行きたい」というような最後の希望が、ニボルマブによってかなえられるかもしれません。そう考えれば、3カ月の延命というのも、あながち短いともいえないのではないでしょうか。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。