天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

虚血性心筋症にバイパス手術が有効とは言い切れない

順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

「虚血性心筋症」という病気があります。心筋=心臓の筋肉の衰弱によって発症する疾患で、心筋梗塞の発作を起こした後に発症するケースが多くみられます。心筋が衰弱すると、全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が働かなくなり、心不全を招いて死に至ることもある深刻な病気です。

 この虚血性心筋症に対し、「冠動脈バイパス手術と薬物治療を併用すると、薬物治療だけの患者よりも、10年間の全死因死亡率や心血管死亡率が2~3割ほど減少する」という研究が4月に米国で発表されました。とはいえ、これで虚血性心筋症の患者さんに対し、積極的に冠動脈バイパス手術が行われるようになるかといえば、まだなんともいえないというのが正直なところです。

 これまでも、薬剤による内科治療と冠動脈バイパス手術を併用すると、虚血性心筋症の患者さんの生存率が多少なりとも改善することはわかっていました。しかし、手術をしたから薬が効くようになったのか、それとも薬の効果によって本来の血流がコントロールされるから生存率が上がるのか、どちらによるものなのかがまだハッキリわかっていません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。