どうなる! 日本の医療

新専門医制度とIT技術が若手医師を苦しめる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「専門医」といっても、しょせんは各医学会が独自に認定している“民間資格”。それぞれの学会の認定基準はバラバラで、専門医の質も大きな差がある。これを第三者機関である「日本専門医機構」による認定に改め、専門医の質を担保しようというのが新専門医制度の狙いだ。

 予定では、6年間、大学の医学部教育を受けてから医師国家試験に合格した後、2年間、法律に基づいた臨床研修を受ける。そこからさらに専門医の養成期間を3年以上経て、ようやく専門医資格がもらえるというもの。来年4月から新制度での研修がスタートし、早ければ2020年度には新たな専門医が誕生する。

 しかし、この新専門医制度は、若手の医師生活を遅らせて、地方の若手医師不足に拍車をかけるともっぱらだ。

 新たな専門医資格を得るには、手掛けた症例数や手術経験数、活動実績が必要となる。そのため、多くの医師が都市部や大学病院にとどまり、地方の医師が減少する可能性がある。

 また、新専門医は集中しないように、地域ごとに各領域で配置できる数が決められる、との懸念がある。これが本当なら、若手医師は居住地によっては必ずしも自分が希望する専門医資格を得られるとは限らないかもしれない。

 新制度は若手の女医も苦しめることになる。内科専門医資格を得ようとすると、初期2年、後期3年の研修を終えてから、基本領域の新内科専門医資格を取得。さらに3年かけて、サブスペシャルティー領域の新内科指導医資格を取ることになる。

 つまり、循環器や呼吸器などの専門研修を受けるのが早くても29歳。出産・育児の時期と重なり、今後、必要とされる内科系の専門医志願者が激減する恐れがあるのだ。

 これに追い打ちをかけるのが、急速に進むIT技術だ。すでに「医療相談」という形で、パソコンやスマホによる医師の“遠隔診療”がスタートしている。ベテラン医師の中には、「これで私たちが医師として働く期間は長くなった。しかも、これまで病院から半径数キロ以内の患者さんだけだったが、地方の患者さんも診られる」と、地方の患者の掘り起こしに意欲を燃やしている人もいる。しかも、腕のいい都会の医師ほど「自由診療にして、お金に余裕のある気の合う患者さんだけを対象に、数は少なくとも丁寧な医療を心がけたい」という。若手医師がそのあおりを受けるのは確実。日本の医療はさらなる混乱に陥ることになりそうだ。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。