Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【追跡調査】がんでも仕事と治療は両立できる

諦めてはいけない(C)日刊ゲンダイ

 放射線治療は数分の照射時間で済み、通院治療が一般的で、都市部なら仕事帰りに受けることもできます。抗がん剤治療も、入院せずに済むケースが多くなっています。通院で治療を受けられる状況は、平等にあるはずですが、仕事を失うリスクは大企業の方が低いのです。

 その理由は、2つあります。ひとつは、大企業の方が時短勤務や職場復帰をサポートする仕組みが充実していること。中小企業の方だと、がん患者をサポートする就業規則が不十分で、周りの目から午前や午後の半休を取りづらく、治療か仕事かの二者択一を迫られ、やむを得ず治療を選択して依願退職に追い込まれるのです。そうなると、治療費が心配でしょう。がんの病名を伏せて通院しつつも「会社に病名がバレたら……」と気をもむ方もいます。

 もうひとつは、患者さんの心理によります。がんで退職した人のうち4割は、治療がスタートする前に会社を辞めているのです。治療と仕事の両立に悩む以前に、がんと診断を受けたことによるショックで動揺し、「この体では、もう仕事はできない」と諦めてしまうのでしょう。職場の支援体制が不十分な中小企業はじめ立場が弱い人ほど、そう思うのは無理もありません。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。