独白 愉快な“病人”たち

作家・村野正好さん 乳がんで「なぜ男性が?」の重圧感じ

村野正好さんにもワイドショー出演していた
村野正好さんにもワイドショー出演していた(C)日刊ゲンダイ

 男性の乳がんの罹患率は、女性の200~300分の1ほどらしいです。多くの人が「乳がんは女性の病気」と思い込んでいますし、男性の大半はまさか自分が乳がんになろうとは思いもせずに生きているはずです。だから、病気が発覚したときには手遅れだったり、仮に早めに分かっても女性でいっぱいの待合室のいたたまれない空気に耐えられず、病院に行けなくなる男性が多いと聞きます。私もこの病気を体験した者として、男性待合室は必要だと切実に思いました(笑い)。

 名門の静岡県立がんセンターで手術をしたのは6年前。右胸と右脇の下、右の鎖骨あたりと広範囲に点在するリンパ節の腫瘍を取るため、右胸をA4サイズほどにわたってごっそりそぎ落としました。

 事の始まりは、手術の1年前に右乳首とオヘソの間あたりにできたゴマ粒ほどのしこりでした。当時はただの脂肪の塊としか思わなかったのですが、1年近く放置していたらそれが小豆大に成長してきて、触るとコリコリするんです。

 多少の違和感を覚えながらも、さして気にするでもなく過ごしていたんですが、ある日、がん発見のきっかけになる出来事がありました。週末の夜、右足の指全体を食卓の脚に強打したことです。そのときは外傷もなく、土日は何事もありませんでした。でも、週明けになって切断してしまいたいほど痛みだしたのです。即座に病院に駆け込むと「目に見えないような小さな傷口からばい菌が入った」とのことで、抗生物質を投与されつつ、少し精密な人間ドックを受けることになりました。

 そこで見つかったのが、冒頭でお話しした広範囲に点在する4つの腫瘍です。アーモンド~ウズラの卵大のものが皮膚の1~2センチ内側にあり、「あと数カ月、発見が遅かったら手遅れ」のレベル。がんの進行度はステージⅢかⅣでした。

 ただ、自分が乳がんだと分かったのは、さらに先のことでした。「大本のがんが、どこかにあるはず」と、最新検査でくまなく内臓を調べ上げても何もなく、最終的に乳腺外科のお世話に……。

 そこで、女性ならよくご存じのマンモグラフィーや超音波診断のエコー検査を受けたのです。

 もう、待合室は針のムシロ。「何で男性が?」といわんばかりの見えない重圧を勝手に感じつつ、なぜか「すみません」という気持ちでいっぱいでした(笑い)。マンモグラフィー検査では、検査技師が男性だったのですが、それはそれで互いに照れ合うという妙な時間が流れました。

 その後、組織の一部を取る病理検査も受けた結果、ハッキリしたのは乳がんか、もしくはアポクリン腺がんかもしれないということ。男性乳がんも珍しいですが、アポクリン腺がんはさらに珍しく、5年生存者はかなり少ないそうです。ちなみに、乳がんは2つの乳房だけではなく、動物の名残りというべきか乳腺が腹部にもあるため、腹部の腫瘍でも乳がんだったりするのです。

 どうであれ、青天の霹靂。ステージⅢの終わりかⅣと言われた時点で、余命を告げられたも同然でした。でもその傍らで、「乳がん」という主治医の言葉を聞いて、なぜか20年ほど前にちょっとした遊び心から、自分の胸にチョコレートケーキを塗られたことを思い出しました。「乳がんになっちゃうかもー!」なんてふざけて言った自分の言葉がよみがえったのです(笑い)。

 思えば、人生にリスクはつきもの。命の危険を伴うようなスポーツや遊びを楽しんできたので「乳がんも仕方ないか」と思いましたよ。世間はとかくリスクを避けることばかり考えますけど、私はベネフィット(成果)を確実に得るためには、リスクはテークするものだと考えています。がんは私に課せられたリスクのひとつ。まあ、男性にしては珍しすぎる病気ですが……。

 右胸に太ももから切り取った皮膚を貼りつけてはや6年目になりました。実は昨年、手術から5年経過のいわば“卒業検査”で左胸に腫瘍が見つかり、9月から女性ホルモンの投与が始まりました。腫瘍が大きくならないように抑える乳がん治療だそうです。転移は怖いと思っていましたが、なってみると当たり前のことのよう。「ついに来たな」くらいな気持ちです。

 病気になって飽きっぽかった性格が粘り強くなったし、より寛容になったと思います。分かりやすい例でいえば、女性に対する個人的見解ですかね。

 以前は「美人が一番」でしたが、数々の看護師さんたちが優しさも最高なんだと教えてくれました(笑い)。

▽むらの・まさよし 1954年、東京都生まれ。学生時代から放送作家として活躍し、30代からは「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)や「遠くへ行きたい」(日本テレビ系)などのほか、多くのワイドショーにも出演。「小泉改革VS田中角栄」「地方栄えて、日本は破産」など著書は多数あり、今夏には自伝的フィクション青春小説を発売予定。広告代理店経営者の顔も持つ。