多くの人が誤解…糖質制限で治る糖尿病、治らない糖尿病

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ごはんやパンなどの糖質を制限していると、確かに血糖値は正常化し、お腹をひっこめることもできるだろう。しかし、それと糖尿病を治すことは別だ。では、糖質制限で治せる糖尿病とはどの段階なのか? 「日本人の9割が誤解している糖質制限」の著者で、20万人の糖尿病患者を診てきた糖尿病治療専門医の「AGE牧田クリニック」(東京・銀座)牧田善二院長に聞いた。

「私も糖質制限を指導してきましたが、その効果は糖質制限中にやせることと血糖値をコントロールできることだけ。それ以上の健康効果を期待するのは間違いです」

 糖尿病の診断基準は空腹時血糖値(126mg/dl以上)、直近1~2カ月の平均的血糖値を表すヘモグロビンA1c(6.5%以上)などがあるが、重要なのは「ブドウ糖負荷試験」だ。

 絶食して8時間以上経った状態で75グラムのブドウ糖を飲み、2時間後に血糖値が200以上であれば「糖尿病」、140以上なら「境界型糖尿病」と判断される。しかし、140未満なら全員が「正常」と断言できるわけではない。

「同じ数値でも、急激に血糖値が上がって落ち着く人もいれば、上がった状態のままの人もいる。糖尿病専門医でない医師はそれがわからないから、糖質制限でコントロールされた血糖値だけを見て“様子を見ましょう”“基準内なので大丈夫”などと言うのです。しかし、その時点で治療が必要な人もいるのです」

 実際、空腹時血糖値が90以内の正常値でも、食べると血糖値が急上昇する人はいくらでもいる。

 恐ろしいのは「(糖質制限で)血糖がコントロールされていれば、糖尿病の合併症は出ない」と思い込むこと。

 30代の田中直子さん(仮名)は「糖尿病」と診断され、糖質制限を開始。「ヘモグロビンA1c」が4.7%(正常値)だったものの、半年後に「人工透析が必要」と宣告された。

「糖尿病治療において、血糖コントロールは治療全体の1割程度に過ぎません。糖尿病は万病のもとといわれ、腎症、網膜症、神経障害といった3大合併症以外に、がん、心筋梗塞、脳卒中、骨粗鬆症、アルツハイマーなどにかかりやすいことがわかっています。糖尿病治療の目的は、糖尿病が引き起こす別の病気を防ぐこと。ところが、田中さんは腎機能の状態を示す尿アルブミン値に赤信号がともっていたのに、“血糖値が正常内なら大丈夫”と考え、取り返しのつかないことになったのです」

 しかも、田中さんは「糖尿病の合併症は徐々に進行するから、ヤバくなったら気付くはず」と思い込んでいた。

「それも間違いです。糖尿病の合併症は昨日まで何でもなかったのに突然失明したり、人工透析になったりするのです。神経障害の影響で軽い心筋梗塞や脳梗塞が繰り返されていたのに気付かず、突然死する方もいます」

■唯一無二の治療法にあらず

 では、どの段階なら糖質制限で元の健康な体に戻せるのか? ヒントは原爆の影響を受けている可能性がある人を対象にした研究にある。糖尿病を発症した人と、しなかった人各1428人に対し、28年間、空腹時血糖値とブドウ糖負荷試験を行った。

「糖尿病を発症した人は発症12年前から血糖値が上がり始め、3年かけて境界型糖尿病に突入しています。この段階なら、糖質制限だけで健康体に押し戻せるかもしれません。しかし、その3年後には血糖値が急上昇し、一気に糖尿病になっています。こうなると糖質制限中は血糖値を抑えられても、例えばかけそば1杯で血糖値が200を超えるようになる。これは健康な人にはみられない状態です。この段階は糖質制限だけではダメで、血糖コントロールしつつ、別の病気に備えてあらゆる手段を使うべきです」

 糖質制限を糖尿病の唯一無二の治療法と思い込むと、命取りになりかねないのだ。

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