徹底解説 乳がんのなぜ?

若年性乳がん 家族性腫瘍なら5割の確率で子どもも発症

姉の麻耶さん(左)も心配…
姉の麻耶さん(左)も心配…(C)日刊ゲンダイ

 市川海老蔵さん(38)夫妻にエールが送られています。9日、妻の小林麻央さんの乳がんを告白。妻と2人のお子さんを思いやりながら淡々と語る姿が共感を呼んでいるのです。

 乳がんの発症年齢は平均57歳ですが、33歳の麻央さんは1年8カ月前の人間ドックで見つかったとのこと(当時32歳)。35歳未満で発症する乳がんを特に若年性乳がんといいます。あくまでも推測ですが、若年性は家族性腫瘍による発症の可能性があるのです。

 たとえば、がんを抑える働きを持つ遺伝子に異常があり、それが受け継がれると、ある家系にがんができやすくなります。それが家族性で、乳がんの場合、BRCAという遺伝子が関係。米女優アンジェリーナ・ジョリーさん(41)はその異常を知り、乳がん予防で乳房を切除したのです。その後、卵巣がん予防で卵巣も切除しました。

 家族性腫瘍は、すべてのがんのうち5%程度。決して多くはありませんが、そんな遺伝的な要因があると、女性は乳がんと卵巣がん、男性は前立腺がんやすい臓がんになりやすい。

■気になる姉の休業

「家族性」とあるように兄弟や姉妹がいると、それぞれに発症するリスクがあります。私の患者さんにも、姉妹で乳がんを発症されたり、兄弟で前立腺がんになられたりするケースは珍しくありません。もし麻央さんの乳がんが家族性なら、2人のお子さんにもそれぞれ2分の1の確率で遺伝する可能性が。姉の麻耶さん(36)が休業中なのも気になります。

 進行が速く、深刻な病状ながら、「手術に向けて」治療を続けていることから推測すると、転移はないもののかなり進行したステージ3の可能性が高いと思われます。

 手術の前に抗がん剤治療をすると、腫瘍が小さくなり、手術がしやすくなりやすい。患者さんによっては、腫瘍が画像上、消えることもまれではありません。

 しかし、手術前の抗がん剤治療は1カ月1クールで6クールが一般的。麻央さんの治療が1年8カ月と長期にわたっているのは、抗がん剤が効きにくいタイプか、ひょっとすると、すでにほかの臓器に転移しているステージ4なのかもしれません。

 海老蔵さんが会見で語っていたように、抗がん剤は万人に効くものではなく、ある方に効いても、別の方には効かないことがあるのです。

 乳がんは、女性の12人に1人が発症。女性がもっともなりやすいがんですが、早期発見すれば治癒率が高いがんでもあります。マンモグラフィー検査やエコー検査を定期的に受けるのが第一ですが、患者さんの56%は自分で見つけたという報告も。乳房から脇の下にかけてのセルフチェックは欠かせません。

■遺伝子検査でチェックを! 

 もうひとつは、遺伝子検査。どんながんであれ近縁者に若年性腫瘍を発症した方がいる家系の人は一度専門医に相談の上、若いうちから定期的に検査を受けておくのが無難でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。