薬に頼らないこころの健康法Q&A

しつけと虐待の“狭間” 親亡き後も人生を生き延びるために

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

「巨人の星」と同時期に、石原慎太郎は「スパルタ教育」という本を出しています。スパルタは古代ギリシャの都市で、ここでは子供は生まれてすぐ長老の元に連れていかれ、そこで「病弱・ひ弱」と判断されると川に捨てられました。そして生き残った子供たちも、7歳になったら軍隊に集められ、毎日、丸刈り、はだしで訓練させられたといわれています。

 日本にも子供を一度捨てる風習がありました。これは、取子と呼ばれるもので、捨てられてもたくましく生き延びた子は強いから育てていこうというものです。

 例えば、子供を便所の板の下をくぐらせてから、道に捨て、それを他の人が拾ってその人から親が子をもらい受けるといった儀式です。今でも、高齢者の中に「捨吉」や「捨蔵」など、「捨」という漢字を使った名がありますが、これは取子の名残と思われます。

 大リーグボール養成ギプスも、獅子の逸話も、スパルタの教育も、取子の風習も、どれも今日の視点では児童虐待です。しかし、いずれも「子供をたくましい大人に育てる」という課題に向き合った結果でした。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。