薬に頼らないこころの健康法Q&A

しつけと虐待の“狭間” 親亡き後も人生を生き延びるために

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 この少子化の時代にあって、「子供をたくましく育てる」ことは、存外に難しい課題です。私は日々、繊細すぎる少年・少女たちと接しています。学校に行かず、引きこもってしまった生徒たちです。私が彼らに言っていることは、「お父さん、お母さんのもとを離れる日は遠くない。これから、君が自分の足で人生を歩いていかなければいけない」ということです。

 私は、彼らを安心させるとか、癒やすといった意識は持っていません。むしろ、危機感を持たせるようにしています。「いずれ一人で生きていかないといけない。このままじゃまずいと思うぜ」と何度も言います。

 北海道の父親を非難することはたやすいことです。でも、「おんば日傘」方式の過保護もまた弊害があります。いずれ父も死に、母も死にます。そうして一人になってからも子供は自分の足で生きていかなければなりません。親が生きている間に、いかにして一人で生き延びていく力を培っていくか、そこには子にとってだけでなく、親にとっても厳しい課題が秘められているように思われます。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。