注目抗がん剤で患者を誤誘導 悪質クリニックの巧妙手口

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 従来と違うメカニズムの抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤が世界中で注目されている。しかし、この薬に絡んだ“インチキクリニック”も増えているという。

「免疫チェックポイント阻害剤の名前を利用して、患者さんから巨額の治療費をだまし取っているクリニックが目立つ」と言うのは、抗がん剤の専門医である日本医科大武蔵小杉病院腫瘍内科・勝俣範之教授だ。

 実態を紹介する前に免疫チェックポイント阻害剤について説明しよう。

 がん細胞の中には、がん細胞を攻撃する人の免疫機能へブレーキをかけ、働かなくするものがある。その結果、がんが発症する。免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫機能へブレーキをかける時に関係する抗体へ働きかけ、このブレーキを「外す」。それによって人の免疫機能の働きが再び活性化し、がん細胞を攻撃して殺す。

 免疫チェックポイント阻害剤は国内外で研究・開発が進められている。日本では「ニボルマブ」(商品名オプジーボ)が承認されていて、切除不能の「メラノーマ」(皮膚がんの一種)、同じく切除不能の「非小細胞肺がん」が保険適用の対象だ。それ以外の疾患に関しては、まだ研究段階にある。

「このニボルマブを不適正に使用しているインチキクリニックが大流行しているのです。私の外来のほとんどの初診患者さんが、インチキクリニックの話をされます」

 これらのクリニックに共通しているのは、免疫機能をアップさせてがん細胞への攻撃を増すとして「免疫細胞療法」を自費診療で行っている点だ。免疫細胞療法に関しては、がん治療の専門医のほとんどが効果を疑問視している。

 しかし、「打つ手がないといわれた進行・再発がんが縮小した」といった言葉につられ、何百万円、何千万円といった高額の医療費を自己負担で支払って、治療を受ける患者が後を絶たない。

 中には、抗がん剤治療が効果を発揮するがんなのに免疫細胞療法を選択し、患者が「効かないから、やはり抗がん剤治療を受けたい」と思ったときにはすでに手遅れ……というケースもある。

「免疫細胞療法はエビデンス(科学的根拠)がなく、きちんとしたデータの論文発表も学会発表もほとんどない。ニボルマブは418人のデータによって承認されていますが、免疫細胞療法の方は何万件行われようと承認への動きがない。これは、効果がないからです。インチキクリニックではそれを分かっていて、ニボルマブに乗じて『免疫細胞療法との併用で効果がある』とウソの説明をしているのです」

 ニボルマブは、体重1キロ当たり3ミリグラム、体重50キロであれば150ミリグラムを2週間間隔で点滴静脈注射するのが標準治療だ。

 ところが、勝俣医師が聞いた例ではニボルマブの使用量は20ミリグラム、多くても40ミリグラムで、メラノーマ、非小細胞肺がんに限らず用いている。

「ニボルマブは高額な薬品なので、量を減らしているのかもしれません。それでは当然ながら効果がない。そして、クリニックが主で行う免疫細胞療法へ患者さんを誘導していくのです」

■インチキを見抜く2つのチェック法

 かつて、多発性骨髄腫の新薬が承認前に個人輸入で使用され、「関連性が否定できない急性肺障害、間質性肺炎(死亡例を含む)」が報告された。勝俣医師はこれを挙げ、「ニボルマブは重篤な副作用の可能性もある薬であり、使用方法を間違えれば大問題につながりかねない。通常、臨床試験は、独立した倫理委員会で審査され、認可を得た場合のみ患者さんには原則無料で参加してもらうものだが、インチキクリニックでは“人体実験”を免疫細胞療法との併用で高額の医療費を取って行っている。これがまた大きな問題です」と指摘する。

 そうしたいい加減なクリニックは、どう見分ければいいのか?

「ニボルマブを保険適用外で不適正使用している。『よく効いた患者の個別の例』をホームページなどで掲載している。この2つがあれば、インチキクリニックと思っていいでしょう。そこにかかる前に、抗がん剤の専門医である腫瘍内科医を受診し、本当に適切な治療を受けるべきです」

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