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【前立腺がんの腹腔鏡下手術】東京歯科大学市川総合病院・泌尿器科(千葉県市川市)

東京歯科大学市川総合病院・泌尿器科の中川健教授
東京歯科大学市川総合病院・泌尿器科の中川健教授(提供写真)

 転移のない前立腺がんで根治を目指す場合、第一選択肢として手術で前立腺を丸ごと取り除く前立腺全摘術が行われる。今は、腹腔鏡下手術(2006年に保険適用)が一般的だが、近年では腹腔鏡下手術を医療用ロボットで行うダヴィンチ手術(12年に保険適用)も普及してきている。

 2年前に慶応義塾大学病院から同科に来た中川健教授(部長=顔写真)は、前立腺がんの腹腔鏡下手術では国内ナンバーワンの実績を誇り、00年にアジアで初めてダヴィンチ手術を行った人物でもある。その後は、一貫して腹腔鏡下手術にこだわっている。どうしてなのか。

「ダヴィンチは手術をする医師にとっては確かにいいシステムですが、腹腔鏡下手術でできることをロボットでやっているに過ぎません。手術の合格点が80点だとすると、ダヴィンチでは90点の手術はできる。しかし、私がやりたい手術は95点や100点。できれば120点の手術を目指しているのです」

 ダヴィンチ手術が腹腔鏡下手術に劣る欠点は何か。それは、手応えなどの「触覚」を感じながら手術をできないことだという。触覚がないと、縫合糸の操作などの手加減が難しく、縫合が不完全になってしまう可能性がある。ロボットのアームが臓器や骨に接触してしまったときも、手応えとして感じることができず、傷つけてしまう恐れもある。

「『触覚がないもので生身の体を扱いたくない』というのが、ダヴィンチ手術を導入しない理由です。今は腹腔鏡も3次元モニターなので、手術時間や合併症の頻度も多くのダヴィンチ手術に勝るとも劣りません。尿失禁の回復も、70%は1カ月以内にパッドがいらなくなる。術後1年の段階で、パッドを1日2枚以上使うようなひどい尿失禁が残る確率は2~3%以下です」

 触覚を生かした丁寧な手術は、術後の回復の早さでも分かる。通常5~6日は必要な尿道カテーテルは、97%が3日で抜くことができる。そして、95%が術後5日で退院。ほとんどが退院翌日に仕事に復帰しているという。

 中川教授個人としては、これまで行った腹腔鏡下手術による前立腺がん全摘出術は1000例以上で、手術関連死はもちろん、手術適応患者の前立腺がん死もゼロ。術後5年のPSA(前立腺がんのマーカー)非再発率は、がんが前立腺の核内にとどまる場合で97%、がんが被膜にかかっている場合でも85%。これは全国でも群を抜いていい成績だ。

「しかし腹腔鏡下手術は術者によって技術差が出やすい手術です。ですから、後進の育成には力を入れています。若手が手術を覚える際には、私の手術の記録動画を見て、使う器具も含めて完全にコピーするよう教えています。20例を完璧にできるようになったら独り立ちしますが、もちろんサポートは続けます」

 同科には、慶応大学病院で中川教授が指導してきた中でもベスト8に入る腕の立つベテラン医師3人が一緒に移籍している。誰もがロボットに負けない技術を持つ職人集団だ。

■データ
東京歯科大学の付属病院。慶応義塾大学病院の関連病院グループに含まれる。
◆スタッフ数=医師7人
◆年間初診患者数=平均1400人
◆腹腔鏡下手術数(2015年)=約90例(うち前立腺がん手術が48例)