身近な薬の落とし穴

自己判断はNG 胃薬の副作用で記憶力が低下したケース

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 胃の痛みやむかつきの原因は、ストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、ピロリ菌などさまざまです。多くの場合、胃の調子が悪い時は、胃薬を飲めばよくなります。気軽に胃薬を飲んでいる方も大勢いらっしゃいます。しかし、胃薬には思いもよらぬ副作用や、他の薬の効果を弱めてしまう危険があるのです。現在、非常にたくさんの種類の胃薬が流通しています。ただ、ひと口に胃薬といっても、「胃酸を少なくする薬」「胃を保護する薬」「胃の痛みをとる薬」など、タイプはさまざまです。

 胃酸を少なくする薬は、胃酸による胃への攻撃を抑え、胃の痛みや胸焼けを改善します。
「ガスター10」(成分名:ファモチジン)は有名で効果も高いため、一般でも頻繁に使用されています。この薬は「H2ブロッカー」と呼ばれる分類の薬で、副作用として認知機能低下や譫妄なども報告されており、特に高齢者や腎機能低下の方で注意が必要です。

 実際、頻繁に服用していたことで日中ボーッとする時間が増え、記憶力が低下した患者さんがいらっしゃいました。ご家族の方は「認知症になったかもしれない」と心配されていましたが、薬の服用を中止し、しばらくすると元の元気な状態に戻りました。この事例では、最初は誰も胃薬の副作用を疑いませんでした。

 また、胃酸を中和するタイプの胃薬=制酸剤も頻繁に使用されています。このタイプには、マグネシウムやアルミニウムが含まれていて、それらの成分が他の薬とくっつき、薬の吸収を妨げる場合があります。「抗生物質を飲むとき、胃が悪くならないように胃薬を一緒に飲む」という患者さんも多くいらっしゃいます。しかし、同時に服用すると、抗生物質の効果を妨げる危険があるのです。

 胃薬は身近な薬のひとつですが、だからといって気軽に飲んではいけません。

中尾隆明

中尾隆明

1985年、愛媛県生まれ。愛媛県立南宇和高等学校を経て岡山大学薬学部を卒業。2008年からこやま薬局(岡山県)で管理薬剤師を務め、現在は企画運営部主任として各店舗のマネジメントを行っている。8月に著書「看護の現場ですぐに役立つ くすりの基本」(秀和システム)を発売。