当事者たちが明かす「医療のウラ側」

米大学が研究 アルツハイマー病は“脳の感染症”が原因?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
40代脳神経科勤務医

 アルツハイマー病は進行性の脳疾患で、徐々に記憶や思考力が障害され、最終的に日常生活を行う能力さえ失われていく病気です。主に60歳以上に表れ、高齢者の認知症の多くがこの病気が原因といわれています。

 なぜ、アルツハイマー病が発症するのか? その原因はわかっていません。ただ、アルツハイマー病の患者さんは脳のいたるところに「アミロイドβ」「タウタンパク質」という物質が凝縮して沈着し、脳内の神経のもつれや神経細胞消失を起こしていることが判明しています。その病変は、記憶をつかさどる「海馬」と呼ばれる部位に広がり、海馬の萎縮も起こすのです。

 ならば、「アミロイドβやタウタンパク質を蓄積させなければアルツハイマー病の進行を妨げるのではないか」という考え方が生まれるのは当然です。その仮定をもとにアミロイドβやタウタンパク質の蓄積を阻害する薬の開発などが進んでいますが、必ずしもうまくいっていません。少なくとも、アルツハイマー病の患者さんにアミロイドβに関する薬を与えても、症状が改善したというエビデンスはありません。

 そこで、アミロイドβが沈着した後では脳神経が死んでしまっているから効果がないので、「沈着前に投与していたら違った結果になるかもしれない」との考えから研究が進んでいます。が、その結果が出るのはまだ先の話です。

 そんな中、新たな説が注目されています。アルツハイマー病は感染症が原因で、アミロイドβは脳内に侵入した病原体と戦う際に産出された物質だというのです。

 ハーバード大学の研究グループは、アミロイドβをたくさんつくり出すマウスと普通のマウスの脳に致死量の細菌を入れたところ、前者はアルツハイマー病患者にみられるようなプラークを脳に形成して、その中に細菌を閉じ込めて生き延びたのに対して、後者はプラークが形成されずに死亡したそうです。このことから、アミロイドβは脳の感染症に対抗するために必要な物質ではないか、と推測されるというのです。

 実は、アルツハイマー病が感染症ではないかという説は他にもあって、スペインの研究グループはアルツハイマー病の患者さんの遺体から真菌細胞やその関連物質を検出しています。別の研究では、アルツハイマー病の患者さんはヘルペスウイルスの抗体値が高いという研究もあります。さらには、抗菌薬を使うことで患者の症状が改善したという研究もあるようです。

 むろん、この「アルツハイマー病感染症説」はあくまでも仮説に過ぎません。ただ、これが本当なら、アルツハイマー病がわずかな年数の間に世界中で激増しているのもわかるような気がします。