病気リスクも減らす可能性 「遺伝子検査」の正しい使い方

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近、テレビや雑誌などでよく目にする遺伝子検査。遺伝子を調べることで、その人の体質や病気のなりやすさがわかるという。しかし、最新の研究では背の高さなどの体質は5割超が遺伝の影響だが、高血圧、糖尿病、がんといった病気の多くは、遺伝が関与する割合は2~3割に過ぎないという。たかだかその程度しか関係しないのなら、病気のリスクを知るための遺伝子検査に意味はないのか?

「それは間違いです。病気の発症は、遺伝的要因とその後の過ごし方(環境要因)、時間が関係します。問題はそれが足し算ではなく、掛け算で表れること。遺伝的要因を持つ人は環境的要因次第で病気のリスクが何倍にも高くなる。逆に言えば、自分の遺伝子を知り、それを抑える生活スタイルを貫けば、病気を予防できる可能性が高まります」

 こう言うのは「北品川藤クリニック」(東京・北品川)の石原藤樹院長だ。

 実際、東大医科学研究所の研究チームなどが、食道がんの発症に関係する2つの遺伝子が配列変化を起こしている人を調べたところ、正常な人と比べて食道がんのリスクは6・79倍増加。そこに酒と喫煙が加わると、そのリスクは189倍へと跳ね上がると報告している。

「こういう人は自身の遺伝子を知ったうえで、禁煙・禁酒するメリットは非常に大きいのです」(石原院長)

 そもそも、人間の体はタンパク質から出来ていて、そのタンパク質を作るための設計図が遺伝子だ。その正体は、DNA(デオキシリボ核酸)で、アデニン、チミン、グアニン、シトシンという4つの塩基が特定の配列で30億個連なり、対をなして細胞の核の中におさまっている。DNAはタンパク質の設計図だけでなく、コピーを作って新しい細胞に受け渡すほか、受精によって両親の遺伝子を受け継がせる働きがある。

「人が持つ23組の染色体には塩基が30億対あり、その中の数百カ所には塩基配列の違いがあります。これが顔つきや病気のなりやすさという個人差になります。このうち、1カ所の塩基配列の異常により病気が発生する場合を『単一遺伝子病』と呼びます。自分の意思と無関係に体が動き、認知障害が表れるハンチントン病は、第4染色体の遺伝子に通常は見られない塩基配列があります」(都内の大学病院勤務医)

■結果に一喜一憂する必要なし

 他に遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子が有名だ。米国の有名女優、アンジェリーナ・ジョリーがこの2つの遺伝子の変異を見つけたことで、将来のがんに備えて乳房を切除したことを覚えている人も多いだろう。

 一方、単一遺伝子病以外を「遺伝子多型」と呼ぶ。

「遺伝子検査は、DNAから遺伝子を分析し、塩基の配列などを調べます。現在、医療機関で行われているのは、乳がん検査や母親のお腹の中にいる赤ちゃんの遺伝性の異常を調べる出生前検査、薬が効きやすい体質かを調べる検査など。民間機関が行うのは、発症リスクは高くないものの、多くの人が持っている疾患感受性遺伝子多型の検査です」(前出の大学病院勤務医)

 ここで気をつけなければならないのは、民間機関の遺伝子検査は、検査結果から推定される各社独自のアルゴリズムに基づく傾向、リスクについてのアドバイスであること。あくまでもその利用の仕方には明確な指針がなく、検査を受ける人に任されている点だ。

「比較的簡単にできるため、一度、遺伝子検査を受けることは一定の意義があります。ただ、現時点ではその結果に一喜一憂する必要はありません。あくまでも、その目的は病気にならないための生活習慣を確立するための動機付けと割り切ることが大切です」(石原院長)

 遺伝子によって生活習慣を変える。これがこれからの健康法なのかもしれない。

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