天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「ロス手術」は将来的に再手術が必要になることもある

順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 先ほどお話しした男性患者さんに使用したホモグラフトは、術後11年ほどで傷みが酷くなり、次にロス手術を行いました。大動脈弁を肺動脈弁と交換し、取り除いた肺動脈弁には、新たなホモグラフトを使いました。

 その2度目の手術から14年後の今年、再び大動脈弁の傷みが進んだため3回目の手術が必要になり、今度は通常に使用されるウシの心膜でつくられた生体弁に交換しました。25年間で3回の手術を行ったことになります。

■「TAVI」の登場で若年者でも生体弁を使うように

 もし、この男性患者さんの最初の手術をいま行うとしたら、ホモグラフトではなく生体弁を使うでしょう。かつては、若年者に生体弁を使うと石灰化が早く進む欠点がありました。35歳以下なら早い人で10年以内、35歳以上は15~20年ほどで劣化してきます。そうなったら、再び弁を交換しなければなりません。しかし近年は、石灰化を抑制すると考えられるコレステロール低下剤「スタチン」を使うことで劣化の速度を遅くできるようになりました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。