Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【早川史哉さんのケース】急性白血病の50~80%は寛解に

右はサガン鳥栖の三丸拡選手
右はサガン鳥栖の三丸拡選手(本人のツイッターから)

 期待のJリーガーにまさかのニュースです。J1アルビレックス新潟のDF早川史哉さんが急性白血病だと発表されました。

 この春、筑波大を卒業したばかりの22歳。20代での発症は、女優の夏目雅子さん(享年27)と重なることから、一般の方の間では“不治の病”のように語られることもあります。

 確かに30~40年前はそのリスクが高かったのですが、治療法が進歩した今なら復帰するチャンスは十分。急性白血病のタイプによりますが、50~80%は寛解と呼ばれる状態に回復します。

 寛解とは、病状が安定し、症状が消えたり軽くなったりした状態。数値でいうと、白血病細胞が全体の5%以下。再発することもありますが、そのまま治ることもまれではありません。

 そのカギを握るのが、抗がん剤治療です。まず寛解を目指し、寛解になったら、白血病細胞のさらなる低下や根絶を狙って、より強い抗がん剤治療を行ってから、その状態を維持する治療に移ります。一連の治療の流れが寛解導入療法、地固め療法、維持療法です。

 たとえば、1989年に急性骨髄性白血病を患った俳優・渡辺謙さん(56)は、1年に及ぶ抗がん剤治療で現場復帰。5年後の再発も乗り越えています。
骨髄性とは、免疫を担う白血球のがん化が骨髄で生じたもの。成人の急性白血病の場合、8割が骨髄性です。急性と慢性の比率は4対1ですから、成人は急性骨髄性白血病の可能性が高いといえるでしょう。

 急性のうち、残りの2割がリンパ性。早川選手の急性白血病がどちらかは明らかになっていませんが、リンパ性も治療は抗がん剤が第一で、寛解導入療法からの3ステップが基本です。

 白血病は、細菌やウイルス、腫瘍から身を守る白血球ががん化する病気で、血液中に散らばっています。抗がん剤は胃や大腸など臓器にできる固形がんを消し去る力はないのですが、白血病なら完治を狙うのも可能なのです。

 抗がん剤治療中は、さらに免疫力が低下するため、感染症のリスクは高く、吐き気や貧血などは避けられません。急性白血病は入院必須ですが、ほかのタイプの白血病だと、外来で治療できるケースもあります。つらい闘病生活の中にも、明るさと希望が見られるようになりました。

 チームによれば、すでに寛解に向けた治療を受けているとのこと。支援基金を設置して、物心両面で早川選手をサポートしています。高校時代、サッカー部に所属したサッカーファンのひとりとして、早川選手の復帰を願ってやみません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。