医者も知らない医学の新常識

変わりゆく高齢者の糖尿病治療

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病は世界的に増えている病気です。この病気は基本的には完全に治ることはありませんから、結果として高齢者の糖尿病は、今後、さらに増えることが予想されます。それでは、若い人と高齢者で糖尿病の治療は同じでいいのでしょうか?

「それではいけない」というのが最近の考え方です。

 糖尿病の患者さんが血糖値を下げるために薬を使うのは、血糖が高くなることによる、「糖尿病性昏睡」(意識がなくなること)と「糖尿病の合併症」の予防のためです。

 失明の原因となる網膜症や、進行すれば透析が必要になる腎症のような合併症は、確かに血糖を正常に近づけるほど予防できます。その効果は若い人の方が大きいのですが、高齢者は、予防の効果は低くなる上に、治療による低血糖などの副作用が起こりやすくなります。昏睡などの予防のためには、血糖値が200を超えないくらいにすれば十分です。

 そこで「高齢者の糖尿病では血糖をそれほど下げなくてもいいのではないか」という議論が起こったのです。専門家の議論の結果、今年の5月に日本糖尿病学会は、高齢者の糖尿病治療の指針を発表しました。そこでは、血糖コントロールの目標を、若い人より高くすることが明確に決められたのです。

 これからは糖尿病の治療も、年齢によって変わることになりそうです。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。