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【難治性てんかん手術】東京都立神経病院・脳神経外科(東京都府中市)

東京都立神経病院・脳神経外科のてんかん治療部門をまとめる森野道晴部長
東京都立神経病院・脳神経外科のてんかん治療部門をまとめる森野道晴部長(提供写真)
4年連続国内第1位の実績

 脳の神経細胞は電気的な信号で情報のやりとりをしている。てんかんは、その神経細胞に異常な電気信号が流れてしまい、けいれんなどの発作が起こる病気だ。

 国内患者は約100万人といわれ、脳の病気やけがなど、明らかな原因があって起こるのは約3分の1。残りははっきりした原因は分かっていない。

 同科は、抗てんかん薬を使っても発作が抑制できずに慢性化する「難治性てんかん」の手術を得意とする施設。年間手術数は4年連続で国内トップの実績を誇る。てんかん治療部門をまとめる森野道晴部長(顔写真)が言う。

「てんかん患者さんの7~8割は専門医による適切な薬物治療によって発作を抑えることができますが、薬でコントロールできない難治性てんかんは国内に10万~20万人いると推定されています。その中で手術による効果が最も期待できるのは側頭葉てんかんです」

■側頭葉てんかんの発作消失率は85%

 てんかんは大きく分けて、脳の一部が興奮して発作が起こる「部分てんかん」と、脳全体が興奮して起こる「全般てんかん」がある。側頭葉てんかんは、部分てんかんのひとつ。異常な電気信号が起こる“焦点”が、脳の海馬(左右2つある)という部分にあることが多く、手術では片側の萎縮した海馬(海馬硬化症)を取り除く。

 一般的に行われている手術は海馬を取る際に近くの脳の一部も切除する術式だが、同科が積極的に行っているのは海馬のみを取り除く「選択的海馬扁桃体摘出術」だ。

「脳の一部を取ってしまうと、片麻痺や視野障害、失語、記銘力低下(新しい体験が覚えられない)などの合併症が起こりやすくなります。選択的海馬扁桃体摘出術は脳を極力温存するので合併症が大幅に予防できます。これまで約300例実施していますが、重篤な合併症はゼロです」

 選択的海馬扁桃体摘出術は1982年にトルコ人医師によって開発された術式で、森野部長は90年代後半に米国で習得。高度な技術が必要なので日本ではほとんど普及していないという。

 また、側頭葉てんかんでは海馬の萎縮が見られない症例(15%)もある。この場合、海馬を取ると記憶力が著しく低下する可能性がある。そのため同科では独自に開発した「海馬多切術」を行っている。海馬を摘出せずに、海馬に切り込みを入れて異常な電気信号の流れを遮断する術式で、この手術を行っている施設も国内では少ないという。

「手術の効果は、側頭葉てんかんの場合、一般的な発作消失率は平均70~75%ですが、選択的海馬扁桃体摘出術では85%です。全般てんかんに対しても病態によってさまざまな術式を行っていますが、手術の目的は症状の緩和です。全般てんかんの発作が減る緩和率は平均50%減くらいです」

 同科では、大脳半球に広範囲に焦点が存在するような片側巨脳症やスタージ・ウェーバー症候群、小児の難治性てんかんなどの治療も積極的に受け入れている。

 国内のてんかん治療をリードする施設だ。

データ
 東京都が運営する国内唯一の脳神経・筋疾患専門病院。
◆スタッフ数=常勤医師8人、非常勤医師2人
◆年間初診患者数=約300人(うちてんかん患者約70人)
◆てんかんの年間手術数(2015年)=115例