独白 愉快な“病人”たち

うつ病をねじ伏せた コラムニスト・勝谷誠彦さんの考え方

陽気に語らう“のんべえ”は健在
陽気に語らう“のんべえ”は健在(C)日刊ゲンダイ

 ある朝、ガツンときました。急に何の前触れもなく、金縛りにあったように体が動かなくて、ベッドから起き上がることができなかったんです。

 うつ病は“心の病気”だから、ふさぎ込んだり眠れないといった精神的なトラブルが起こるだけだと世間では思われているでしょう? でも、私の場合はいきなり体が動かないという物理的な症状が表れたんです。

 そこから2~3カ月の記憶はほとんどなく、非常にあいまいなのですが、仕事は無理やり続けていました。そのおかげかどうか、3カ月ほどで寛解。医者に言わせると「あの状態から3カ月で寛解なんて奇跡」とのこと。平均的には半年以上かかるらしいです。

 ただ、この病気で何年も苦しんでいらっしゃる方がいることも分かっているので、「治りました!」と喜んでばかりもいられません。言えることは、治る速度は本当に人それぞれ違うということです。

 ガツンときたのは2015年5月のゴールデンウイークが明けたころでした。私は「勝谷誠彦の××な日々。」という有料メールを毎朝10時に配信しています。1年365日休みなく、毎回5000字書くのが日課です。それを10年以上も続けていて、欠かしたことはありません。その日も、配信するため、朝3~4時に起きたんです。体の異変が起こって記憶はまったくないんだけれども、あとから見ると、ちゃんと5000字書いて配信していた。頭や体がどうしようもない中でも、這うようにしてパソコンの前に座り、5000字を書いたんですよね。

 その後も、毎朝書いてはバタンとベッドに倒れ込む日々を繰り返しました。お金をいただいて配信しているわけだから、当然といえば当然だけれど、われながらプロだなと思いました(笑い)。

 うつ病だと分かったきっかけは、内科医をしている弟に電話したことでした。「熱もないし、風邪でもないし、なんだろう」と話すと、一発で「心療内科へ行ってみたら」と言われたんです。どうやら、話し方が異常だったようです。紹介された病院の医師にも、後から「こんな重症は久しぶりに見た。ヤバイと思った」と言われました。それほど、顔の肉が下がっていて、足取りも頼りなかったみたいです。

 膝をポンと叩く検査でかっけも発覚したり、マネジャーからは「アルコールの飲み過ぎじゃないか」と指摘され(笑い)、食事や酒量を改善しました。投薬もされましたが、間もなく医師から「やめていい」と言われ、今はもう薬は飲んでいません。

 原因は考えません。うつ病は降ってきた風邪のようなもの。もっといえば交通事故みたいなもので、誰でもなる可能性があって、たまたまぶつかっちゃっただけのことです。あとは、どう治すかでしょう? 「なぜなったのか」を考えていくと、ますます自分を追い込んでしまい、さらに悪化しかねない。私は「うつ病などない。あるわけがない」と思い込んだことで“出口”へたどり着いた。涙が止まらなかったり、死に方を考えたりすることもありましたが、「うつ病、コノヤロー! 早く出ていけ!」と強く念じて、うつをねじ伏せたと思っています。

■仕事を休まなかったことがよかった

 患者としては珍しく、うつ病について病識があったことも幸いしたかもしれません。「こんな人がなりやすい」といったメディアが“つくった”うつ病に惑わされることなく、医師の指示に従って地道に生活を改善し、「うつなどない」と思い続けることで、徐々に出口に近づけました。

「こんな症状があったらうつ病かもしれない」なんて記事や情報で、自分がうつだと思い込んでしまう人もいるでしょう。でも、まずは本当にうつなのかを疑った方がいい。気持ちが落ちているだけかもしれないですからね。

 もうひとつ、仕事を休まなかったこともよかったと思っています。記憶があまりない間も、ラジオ出演や地方講演をこなしました。ニッポン放送では、週1回90分の生放送で、時事ネタを切るコーナーがあったのですが、ろれつがおかしくて、「です」と言っているつもりが「れす」だったりして、まったく切れていなかった(笑い)。司会の方が全力でフォローしてくださったので本当に感謝していますし、番組もよく私を使い続けてくれたなと思います。

 今はすっかり元通り。陽気に語らう“のんべえ”は健在です。