医療数字のカラクリ

厳しい抗がん剤治療 途中でやめた「脱落者」をどう扱うか

 抗がん剤の治療は、副作用の影響などで継続が困難になり、最後まで完遂できる人が一部であったりします。ニボルマブ(オプジーボ)の臨床試験で、どれくらいの割合で治療を中止した人がいるのかを見てみましょう。

 ニボルマブ群では一番少ない人で1回の投与で終了、最大は52回の治療を受けています。中央値は6回の投与で、予定の治療を90%以上受けることができた人が83%となっています。抗がん剤としてはかなり高率に治療が継続できています。

 それに対し、ドセタキセル(タキソテール)群においては、66%と少なくなっています。治療を継続することができなかった理由は、どちらのグループにおいても副作用だったとのことです。ニボルマブ群の方が最後まで治療を続けられた人が多く、患者にとっても優しい治療だったということでしょう。

 ニボルマブ群の方が「3カ月長生き」という結果は、前記の治療が継続できなかった人も含めて分析されています。

 つまりニボルマブ群は10%弱の人が、ドセタキセル群では30%以上の人が“予定通りの治療を受けていない状況”で効果が調べられているのです。そのため、ドセタキセルで治療ができた人に限って分析すれば、ニボルマブとの差はもう少し小さいのかもしれません。

 しかし、治療を最後まで受けられた人たちだけで比べるよりは、最初に治療を始めた人すべてで比較した方が、臨床現場でのリアルな効果を見ることができます。このすべての人を含めて分析する方法を「治療意図に基づく解析」と呼び、臨床試験の分析はまずこの方法で行われるのが標準です。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。