英国のEU離脱で世界中が大騒ぎだが、医療も無縁とはいえない。EUの研究補助金カットに加え欧州圏の薬事審査・ライセンシング業務がストップしてしまう可能性が高いからだ。欧州に留学経験のある大学医学部の研究者が言う。
「現在、EU加盟国の医薬品承認を管轄する欧州医薬品庁(EMA)はロンドンにあり約600人の研究者や専門スタッフがEU各国から集まっています。英国のEU離脱決定でEMAは仏、独への移転が濃厚で、英国から有能な人材が流出することになります」
問題はそれだけにとどまらない。EMAがあることで多くの世界的な大手薬品企業が英国に拠点を置いてきたが、EMAが移ることで拠点を替える必要にも迫られる。日本の製薬企業の中にも武田薬品工業やアステラス製薬、エーザイなど、欧州ビジネスの統括拠点を英国に置いている企業が多いから日本も無縁とはいえないだろう。
当然、英国系の大手製薬企業は大打撃だ。
「喘息薬などを中心に世界6位の売り上げを誇るグラクソ・スミスクライン、それに前立腺がんの抗がん剤などを販売する世界7位のアストラゼネカなどのグローバル企業が多い。こうした製薬会社は英国内の工場からEU圏内に出荷する際、多額の関税をかけられる可能性が高い。そのコストを他の薬の値段に転嫁することになるでしょう」(製薬関係者)
今後、英国の医学レベルが低下し、創薬力が弱まるのも確実だ。
「EUは科学振興援助のため“ホライズン2020年”を計画、科学、医学、生理学、薬関係などに補助金事業を行うことを打ち出しています。そのため、少なくともEU組織、欧州研究会議(ERC)からイギリスの製薬、医学関係には多額の研究費用が配分されてきました。それが一斉に打ち切られることになるでしょう」(大学研究者)
ノーベル生理学・医学賞を受賞したマイブリット・モーセル氏とエドバルド・モーセル氏もERCの支援で研究を続けられたことが賞につながったとさえいわれている。資金の打ち切りは日本人を含めた外国人研究者の英国留学を中断させ、ひいては英国の創薬力を低下させることになる。
「製薬関係者の間では英国は新薬市場にふさわしいのか、が問題になっています。いまや新薬開発の成功率は3万分の1。薬によってはコストは数百億円かかる。人口わずか6460万人(2014年)の英国で新薬を開発しても儲からない、というのです」(都内の大学病院関係者)
国が落ち目になると、良い医療が受けられなくなる。肝に銘じるべきだ。
どうなる! 日本の医療