Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【竹原慎二さんのケース】セカンドオピニオンは放射線科医に

抗がん剤治療と手術で膀胱がんを克服
抗がん剤治療と手術で膀胱がんを克服(C)日刊ゲンダイ

 がんとうまく向き合っているのが、ボクシング元WBA世界ミドル級王者の竹原慎二さん(44)です。

 抗がん剤治療と手術で膀胱がんを克服。経過観察中ですが、「順調に回復してやっと振り返る余裕が出てきた」ことから、ブログで闘病日記をスタートしました。

 闘病中、同じがん患者の闘病記を読み漁り、「経験者の情報は何よりもありがたく、僕自身も自分の治療法の選択にも大いに役立った」というのがその理由だそうです。2度にわたる日刊ゲンダイのインタビューでは、苦しい胸の内を語っていました。

 1日10回もの頻尿やオシッコのときの痛み、熱さなどから不安になり、受診したものの、最初は膀胱炎、2度目は前立腺肥大と誤診され、それでもおかしいと別の病院でステージ3の浸潤性膀胱がんと診断されたそうです。

 本人は「免疫療法」を受けたかったのに、医師に否定され、「お先、真っ暗になった」と言います。心情を察した家族や周りの勧めもあり、実は当院に転院。医師の説明に納得し、安心して治療を受けられましたが、それまでの不安感が、ブログでの闘病記執筆に結びついたのでしょう。

 闘病記は患者さんに参考になりますが、竹原さんの行動で見逃せないポイントが一つあります。昨年のインタビューで「セカンドオピニオン、サードオピニオンと違う病院を訪ねても結果は変わらず、聞くたびに落ち込む」と答えていたことです。

 膀胱がんは泌尿器科、肺がんは呼吸器科、胃がんや大腸がんは消化器科で最初に診断されるのが一般的でしょう。それでセカンドオピニオンを求めて、別の病院の同じ科を訪れる人が少なくありません。そうすると、医師が変わっても、外科医なのは同じで、手術以外の治療法に疎く、竹原さんのように悩みが深まりかねないのです。

 では、どうするか。セカンドオピニオンは、放射線科医に求めるのが正解です。日本の診療科は縦割りのため、外科医は違う診療科、臓器のがんについては門外漢なのですが、放射線科医はすべてのがん治療に携わっています。がん治療先進国米国では、外科医→放射線科医→腫瘍内科医の順に相談するのがセオリーです。

 米国では、すべてのがん治療のうち6割が放射線ですが、日本はわずか3割。放射線で済むのに手術が行われているケースが少なくありません。もちろん、放射線には被曝リスクがあり、皮膚が赤くなったり、胃腸の粘膜が荒れたり、下痢や吐き気を起こしたりするなど副作用もあります。しかし、照射技術が進んだためかなり少なくなり、今や手術や抗がん剤の副作用より軽い場合がほとんどです。

 もう一つ、セカンドオピニオンは、最初の診断から3カ月以内に受けるのが大切。一般的ながんだと、3カ月以上で治療が遅れるリスクが高いのです。一度スタートした治療を不審に思っても、それを変更するのは難しく、診断から3カ月以内、治療開始の前が鉄則です。

 セカンドオピニオンについて、この2つはぜひ頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。