病気に潜む「脳の異常」

「ランナーズハイ」は危険な兆候 脳内麻薬が疲労感を隠す

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 過労死はいまや大きな社会問題だが、なぜ人間は疲れているのに死ぬまで働き続けるのか? それは脳の仕組みに原因があるという。

「過労死があるのは人間だけです。それは、脳が発する『疲れた』とのシグナルに対し、他の動物と違って疲労感を隠す仕組み(マスキング作用)があるからです。ほかの動物にはみられないほど発達した前頭葉のせいです。意欲や達成感をつかさどる前頭葉が、眼窩前頭野が発する疲労感というアラームをマスキングするのです」

 こう語るのは大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授で、「東京疲労・睡眠クリニック」(東京・新橋)院長の梶本修身医師だ。

 実際、仕事にやりがいや達成感を感じて無理を重ねてしまう、という経験は誰しもあるはずだ。長距離ランナーが経験する「ランナーズハイ」という高揚感もまた、疲労感のマスキング作用にほかならない。

「このとき、脳内ではエンドルフィンやカンナビノイドといった脳内麻薬と呼ばれる物質が分泌され、疲労感や痛みを消して快感や多幸感に似た感覚が引き起こされるのです。しかし、これは疲労を癒やすものではなく、危険な状態なのです」

 では、どうすれば脳の疲労を和らげられるのか? よく終業後に疲れを発散するため、スポーツジムで汗を流したり、お酒を飲んで騒ぐ人がいるが、お勧めできないという。仕事で疲労した脳に新たな疲れが加われば、さらなる自律神経の乱れを呼び起こすからだ。

「脳疲労を軽減するには、自律神経の副交感神経を優位にして脳と体の活動を休息モードにする必要があります。そのためのひとつとして『ゆらぎ』のある生活を心がけることです」

 ここでいう「ゆらぎ」とは時々窓を開けて外気に触れる、鳥の鳴き声を聞く、室温を変えるといった、ちょっと違った環境に身を置くことで経験することだという。

 例えば、長時間運転すると疲れるが、それは運転そのものが体や脳を疲れさせるのではない。「同じ姿勢」をとり続けることが原因だ。この場合、姿勢を変えることが「ゆらぎ」となる。

 実際の実験でも、運転している人が1時間ごとに休んで立ち上がる、机に座っている人が少し歩いてみるといった簡単な動作でも、足の血液を心臓へ還流させ、結果的に脳疲労の回復に効果的だという。

「リフレッシュのため家族で1泊2日の温泉旅行に出かける人がいます。しかし、移動などを考えれば多くの場合、逆効果になる可能性が高いのです」