一般的な放射線との違いは 陽子線治療を知る8つのヒント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 全額自己負担で300万円ほどかかる陽子線治療。今年4月から、小児がんに対して保険適用となった。申請後、上限を超えた治療費が返金される高額療養費制度を利用できるので、金銭的負担はぐっと減る。気になるところを専門医に聞いた。

 答えてくれたのは、2009年に厚労省から先進医療実施施設の認定を受けている「南東北がん陽子線治療センター」(福島県)の菊池泰裕センター長。陽子線治療に加え、既存のがん治療である手術、抗がん剤、放射線治療も行っている。

(1)陽子線治療とは、どういう治療?

「放射線治療のひとつです。放射線治療にはエックス線と粒子線があり、陽子線は粒子線になります」

(2)一般的な放射線治療との違いは?

「一般的な放射線治療はエックス線で、体内を通過すると次第に弱まっていきます。一方、陽子線(粒子線)は、体内を進んだ先で高いエネルギーを発揮し、止まります」

 簡単にいえば、一般的な放射線(エックス線)はがんを突き抜けるが、陽子線は突き抜けない。

(3)体内の影響は?

「陽子線は、正常組織へのダメージを格段に下げられます」

 一般的な放射線は、がんに強い放射線を当てると、がんより手前の正常組織にはそれより強い放射線が当たり、がんより後方の正常組織にも放射線が当たる。

 しかし、陽子線は目的地のがんに最も強い放射線が当たり、突き抜けないので、後方の正常組織は“無傷”だ。

■負担が激減

(4)なぜ、小児がんに保険適用となった?

「小児の組織は成長過程なので、放射線の感受性が高く、成人より障害を受けやすい。二次性がんといって、小児がんは治っても、その後、別のがんが誘発されるリスクがある。また、がんではなくても、成長の過程で何らかの障害が出てくるリスクもあります」

 二次性がんや、成長過程の障害を「晩期合併症」という。現在は小児がんの70%以上が治癒する時代で、小児がん治療の大きな課題のひとつは晩期合併症への対策。そのため、正常組織へのダメージが少ない陽子線治療が保険適用となった。

 がんによっても違うが、陽子線治療によって平均3分の1ほど二次性がんのリスクを下げられるという。

(5)小児がんでの陽子線治療の対象は?

 小児がんは約3分の1が白血病やリンパ腫、残りの半分近くが脳腫瘍で、脳腫瘍以外の小児固形がんの多くは「肉腫」「芽腫」。陽子線は放射線治療のひとつなので、これまで放射線(エックス線)治療の対象だったものが、そのまま陽子線治療の対象になる。すなわち、脳腫瘍、肉腫、芽腫などで、明確にガイドラインで定められている。

(6)陽子線治療で小児がんの治癒率は上がる?

「二次性がんの発生率は下がりますが、小児がんの治癒率そのものは変わりません」

 ただ、成人と違って、小児はがんの手術後も何十年と人生が続く。ダメージが少ない陽子線治療を保険適用で受けられるようになったのが福音であるのは間違いない。

(7)成人よりも照射線量は少ない?

「成人よりもよく効く例があるので、照射線量や回数は一般的に少ない。がんの種類によって決まります」

(8)陽子線治療を行う医療機関ならどこでも受けられる?

 そうではない。

「特に麻酔が必要な場合は、何か問題が起こった時に対応できるシステムが必要。小児科との連携が取れていない医療機関では、成人への陽子線治療を行っていても、小児には行っていないところが少なくありません」

 同センターでは、小児腫瘍科のある福島医大と連携して治療している。

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