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【乳房再建】がん研有明病院・形成外科(東京都江東区)

がん研有明病院・形成外の澤泉雅之部長
がん研有明病院・形成外の澤泉雅之部長(C)日刊ゲンダイ
国内トップの手術数を誇り年間50人の医師が研修に訪れる

 乳がん手術で切除した胸のふくらみを取り戻す「乳房再建」。2013年7月に侵襲の少ない人工物(シリコーン)による乳房再建(インプラント法)が保険適用となり、急速に普及しつつある。

 同科は乳腺外科とのチーム医療で2006年から乳房再建を始め、当初からインプラント法も自由診療で行ってきた実績をもつ。乳房再建の年間手術数は国内トップ。全国から年間約50人の医師(乳腺外科や形成外科)が乳房再建の研修に訪れている。同科の澤泉雅之部長が言う。

「以前は“できるだけ乳房を残したい”というニーズから乳房温存手術が主流でした。しかし、乳房を温存しても形が悪かったり、切除範囲に不安が残ることなどから、『全摘+再建』を選択する患者さんが増えたのです。10年前、当院の乳房温存率は70%でしたが、いまは38%。全国平均でも50%を切っています」

 乳房再建には、根治手術と同時に乳房再建を開始する「1期再建」と、術後の放射線治療などすべての治療が終了した後に再建する「2期再建」がある。

 再建のやり方は、乳房全摘後に「エキスパンダー」という組織拡張器を乳房の部分に入れる。そして外来で2週間に1回、1~3カ月かけてエキスパンダーに生理食塩水を注入していき、ちょうどいい大きさまで皮膚を伸ばす。さらに半年置いて、人工物や自家組織(皮弁法)と入れ替える。

「1期再建の適応は、根治手術で治るステージⅡまでの患者さん、それから乳房温存では形が保てない(乳房の4分の1以上を切除する)患者さんです。この適応は乳腺外科によって判断され、当科が手術に参加することになります」

 インプラント法か皮弁法かの選択も一長一短。皮弁法は腹部などの組織を使うので、どうしても手術に時間がかかり、傷痕も残る。それに比べインプラント法は2~3時間の手術で、入院は2泊3日ほど。侵襲が少なく、圧倒的に適応範囲が広いという。

「乳房再建は、エキスパンダーが動かないように胸の筋肉の中に上手に埋め込むところにコツがあります。それに人工物を入れるときも、周りにできた被膜を細かく調節してきれいに仕上げるのにも技術が必要です」

 人工物は異物なので被膜拘縮(硬くなる)が起こる。通常、人工物を入れてから10年内の破損率は10%といわれている。皮弁法はそれがなく、術後3年くらいで満足度はインプラント法と逆転するという。

 いずれにしても、乳房再建ができるのは「オンコプラスティックサージャリー学会」認定の施設、医師に限られる。

「新規に使われるエキスパンダーの個数は全国で年間6000弱ですが、半数は東京23区に集中しています。乳房再建の均てん化を進めるのも当科の大きな目標です」

 これまで、同科の乳房再建は院内患者を対象としてきたが、今年春からは院外患者の2期再建(紹介状が必要)も受け入れている。

■データ
病床数700床の国内最大のがん専門病院。
◆スタッフ数=常勤医師10人、非常勤医師6人
◆乳房再建手術数(2015年)=849例
◆インプラント法:皮弁法の割合=10対1