医療数字のカラクリ

「治験ボランティア」のカネとリスク

 薬の開発に欠かせない臨床試験(治験)の参加者とは、どんな人たちなのでしょう。まず、健常者を対象にする第1相臨床試験の参加者について説明しましょう。

 この第1相臨床試験の参加者は「治験ボランティア」と呼ばれます。

 新薬の開発に貢献するために、いまだ人間での安全性や効果が検討されていない「薬の候補となる物質」を、自らの意思で飲もうという人たちです。

 これまで紹介したフランスやイギリスの事件のように重大な副作用が起きるかもしれません。そうした危険を承知で自ら参加するわけですから、社会貢献度が極めて高いボランティアのひとつといえるでしょう。

 ただ、呼び名はボランティアですが、現実は少し違った面があります。「負担軽減費」といって、参加者にお金が支払われるからです。多くの治験は施設に泊まり込みで、24時間拘束を受けます。その負担の軽減のために支払われるお金という位置づけです。2泊3日で6万~8万円、7泊8日で14万~20万円というのが相場のようです。

 ネットで治験ボランティアを募集するサイトがあります。のぞいてみると、ちょっと心配な面があります。

「動物を用いた試験で、効果と安全性が確認されたものだけが新しい薬の候補となり、人による臨床試験に入ります」などと書かれているページがあります。動物で安全なものが人間で安全かどうか分からないからこそ治験が必要になるのであって、この説明は誤解を生む可能性があります。

 ただ、危険性を強調しすぎると参加者がいなくなって治験が実施できなくなるのも問題で、難しいところです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。