病気に潜む「脳の異常」

慢性腰痛<1> 痛みの刺激が脳を壊す

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 腰痛は日本人の4人に1人が悩む国民病だ。その半数は痛みが3カ月以上続く慢性腰痛。内臓や脊柱周辺など痛みが特定されているケースは別だが、痛みの原因は取り除かれているはずなのに痛みだけが続いている場合、多くの患者がドクターショッピングを続けるという。

 実はこうした患者の脳には、ある共通の変化が見られることが分かっている。それが背外側前頭前野(DLPFC)の萎縮だ。福島県立医科大学医学部整形外科学講座の大谷晃司教授が言う。

「慢性腰痛の人は、脳の外側にある灰白質の体積が減っていることが確認されています。DLPFCはその一部で、痛みの情報を受け取った脳が興奮するのを鎮める役割を担っています。健康な人は、これが正常に機能しているから痛みを長く感じないでいられるのです。ところが、慢性腰痛の患者さんはその体積が健康な人に比べて極端に少なく、活動も衰えているのです」

 カナダのマギル大学の研究チームが半年以上腰痛に悩む患者18人を調べたところ、DLPFCが健康な人の半分くらいしかないことが判明。痛みが長引いている人ほど、その働きが衰えていたという。

「最新機器で慢性腰痛の患者さんの脳を調べてみると、別の部分の萎縮が見られることが分かってきています。例えば、記憶や情動に関する扁桃体や、同じく記憶に関する海馬や帯状回、記憶のほか言語や聴覚にかかわる側頭葉、あるいは痛みに注意を向けるとより活性化する島皮質、やる気に関わる脳の側坐核などです」(大谷教授)

 慢性的な痛みの刺激が脳の灰白質を萎縮させ、痛みの抑制機能を低下させ、痛みの錯覚を起こす――。ドクターショッピングを続けている慢性腰痛の患者の一部には、脳の異変が原因になっているケースの患者が存在する。

 重要な点は、一度失われたこうした脳の機能は訓練によって取り戻せることだ。実際、2013年のカナダの研究では、痛みで体積が減少していると思われた灰白質は認知行動療法によって一部が回復したという。

 大谷教授も属する菊地臣一学長率いる福島県立医大整形外科グループは、こうした新たな知見をもとに認知行動療法を含めた新たな治療法をスタートさせている。多数の腰痛患者が全国から殺到しているのは、その成果が挙がっているということだろう。

 では、脳で起きている「痛みの錯覚」を解消する認知行動療法とはどんなものだろうか?