病気に潜む「脳の異常」

慢性腰痛<2> 「認知」「行動」を変えて身体反応を抑える

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、慢性腰痛の新しい治療法として福島県立医科大学整形外科チームが行う「認知行動療法」が注目されていることを紹介した。では、認知行動療法とは具体的にどんなものなのか?

 認知とは「現実の受け止め方」や「ものの見方」を言う。ある出来事により、瞬間的に浮かんだ考えやイメージの認知とそれに続く行動を変え、不快な身体的症状が表れるのを防ぐ。これが認知行動療法だ。

 例えば、あなたに待ち合わせした人から「10分遅れる」と連絡が来たとしよう。ここで「約束は絶対に守られるべき」と「認知」する人は、イライラした「気分」や怒りの「感情」が湧き、相手に文句を言う「行動」を取る。そうすると、緊張して口が乾いたり汗が出たり疲れたりするなどの「身体反応」が表れる。さらには、それを見ている周りの人(環境)に「そこまで言うことないのに」などと反感を持たれ、関係が悪化する。

 この場合、あなたは無意識に浮かぶ「気分」や「感情」「身体反応」を抑えることはできない。しかし、「認知」や「行動」は自分で選択できる。例えば、「10分あるなら仕事の書類に目を通しておける」と認知を変え、「かばんを開く」という行動を取ることは可能だ。そうすれば、待たされている10分間を有効に使えて穏やかな気分でいられるし、周りの人(環境)と関係を悪化させることもない。

「慢性腰痛の患者さんには腰痛に関して共通の認知の過ちがあり、それにより痛みを起こしやすい体質になっているのです」と言うのは福島県立医科大学医学部整形外科学講座の大谷晃司教授だ。

「代表的な過ちは、①痛くなるから腰を伸ばせない、②腰痛はこのまま治らない、③一日中痛い、④薬を飲まないと痛みは取れない、⑤痛みが軽くならないと~できない、⑥人より痛みがひどい――などです。そうなると、本来の腰の痛みに加えて、行動が制限されることで失う社会的な損失による痛みが加わり、痛みが慢性化してしまうのです」

 怖いのは、痛い顔をしたり、患部に手を当てたり、薬を飲んだりといった「痛みを他人に伝える行為(=痛み行動)」が患者の脳を勘違いさせ、必要以上に痛みを生み出すように働くこと。他人がそれに気遣いを見せると、患者の痛み行動が増えて患者の脳の勘違いはさらに強化されていく。

 とはいえ、腰痛に関する認知の過ちは各人微妙に違う。そのため、慢性腰痛の人はどんな状況でどう認知し行動したかについて「ストレス日記」をつけ、分析・修正することが大切だ。