どうなる! 日本の医療

いまの医療改革は“内需拡大”のための経済政策に過ぎない

 電子化すれば利用者の利便性が高まり、業者の事務が合理化され、コストも下がる――。

 何度、このフレーズにダマされてきたことだろう。

 利用者にとっては、これまで業者の仕事だったデータ入力がセルフサービスになり、自己責任の範囲が増えた。業者もシステム維持に想像以上のコストを強いられる。医療の電子化も同じではないのか。

 今年4月から、電子データでの処方箋のやりとりが始まった。地域医療連携ネットワーク(全国200カ所)の枠組みを使い、専用サーバーの導入費用は厚労省の基金が負担。運営費は医療機関や薬局が賄う。大手薬局の薬剤師が言う。

「電子処方箋の実際の使い方はこんな具合です。まず、患者さんは電子処方箋の識別番号が書かれた『電子処方箋引換証』を医師から受け取り、薬局に提出し、薬を受け取ります。患者さんのメリットは待ち時間なしで薬を受け取れる点。薬局は処方箋を紙か画像データで3年間保管する必要がありますが、投薬後に紙の処方箋のデータをパソコンに入力する手間や、打ち間違えのリスクが低くなります」

 年間の処方箋枚数は全国で7億枚超。そのメリットは大きいという。

 しかし、外科医でNPO法人「医療制度研究会」副理事長の本田宏医師の考えは少し違う。

「少なくとも、私が問い合わせた複数の地方病院は、電子処方箋をまったく導入していませんでした。大病院や大薬局は対応可能かもしれませんが、患者が少ない個人経営の薬局などはシステム投資や作業習得の負担感が大きい。患者に薬を渡した直後、湿布薬の追加がわかった場合、紙と違って電子処方箋だと再び煩雑な手順が必要となります」

 しかも、究極の個人情報である“医療情報”を完璧に守れるのか、常に不安がつきまとう。

「結局、電子化の恩恵を受けているのはIT関連業界で、病院や薬局、患者もメリットはさほどではないのではないか」

■ウハウハなのはIT企業だけ 

 安倍政権の医療改革は医療費削減に名を借りて強行される“内需拡大のための経済政策”“IT産業育成策”に過ぎない。

 実際、安倍政権下が解禁した薬のネット販売や、なし崩し的に始まった遠隔医療にしても喜んでいるのはIT業界だけ。4月からスタートした「かかりつけ薬剤師」も、儲けているのは認定薬剤師の資格を得るために必要なネット研修会社。医療機関に設置されているさまざまな高額医療機器のメンテナンスもネットで行われるのが普通になっている。

 その一方で、政府・与党は70~74歳が支払う医療費負担を2014年から1割→2割にアップ。さらに今後、70歳以上の高額医療の上限額を2017年度から引き上げる方針を決めた。

「40兆円を超える医療費削減に寄与するとの名目でIT化を進めていますが、成果が上がっているとは思えない。いまの医療改革はIT業者が潤うだけで、その象徴のひとつが電子処方箋ともいえます」

 そもそも役人は国民医療費という巨額な税金を使い、どの業界を育成するかを考えているだけ。本気で国民医療費を削減しようとは思っていない。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。