Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【南果歩さんのケース】手術後に分子標的薬を投与する理由

女優の南果歩(C)日刊ゲンダイ

 なぜこれほどの効果が得られるのかというと、ハーセプチンの薬の効き方にヒントがあります。がん細胞の表面には、人によってHER2というタンパク質が過剰に出現していて、このタンパク質はがんの増殖にかかわっているとされます。それと結合して増殖をブロックするのがハーセプチンです。

 一方、従来の抗がん剤は、がんの原因となるようなDNAの複製や細胞分裂を抑える働きがあって、腸管や骨髄、毛根など細胞分裂が盛んな正常な臓器や組織にも作用します。副作用として下痢や吐き気、嘔吐、白血球の減少による免疫力の低下、脱毛が生じやすいのはそのためです。

 がんに特異的に存在する分子にターゲットを絞ってピンポイント爆撃を仕掛けるのが、分子標的薬のハーセプチンで、体内に広くじゅうたん爆撃をするのが抗がん剤というイメージと思えば、理解しやすいでしょう。ハーセプチンにも悪寒や発熱などの副作用がありますが、抗がん剤ほど重くはありません。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。