Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【南果歩さんのケース】手術後に分子標的薬を投与する理由

女優の南果歩(C)日刊ゲンダイ

 抗がん剤との併用のほか、単独投与もできます。手術の前にも後にも、使用可能です。投与は1年。術前投与でがん細胞が消える可能性もゼロではなく、そうすれば手術をせずに済みます。腫瘍は消えずとも、3センチ以下になれば、乳房温存手術に切り替えることも可能です。

 そう考えると、手術前に投与する方がメリットが大きいように思われますが、南さんは5月に舞台出演していることから推測すると、仕事のことを考えて治療スケジュールを組んだのだと思われます。余裕を持って対応できる病状だと考えることもできるでしょう。

 乳がんの方にとって福音となる薬なのですが、「人によって」と書いたのがミソ。HER2は、すべての乳がんに表れるわけではなく、乳がん患者全体の20%ほど。つまり、乳がん患者のうち5人に1人しか適用になりませんが、ハーセプチンが効くタイプでなくても、乳がんは早期なら治る可能性が高い。期待の新薬に頼るより、南さんのように早期発見、早期治療を心掛けることが何より大切です。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。