胃腸が強くない人は、小麦などが体質に合わないグルテン過敏症かもしれない。
記者は約40年間、胃が弱いと思っていた。学生時代は胃痛で学校を休むことが何度もあった。病院の検査では異常なしで、「精神的なものでは」との指摘を受けていた。
社会人になってからは胃もたれや胃の膨満感のような不調が頻繁にあり、昼食は麺類など消化の良いものにしていた。それでも、夜になってもお腹がへらない。胃が弱いという自覚から、コーヒーは飲まないようにしていた。
■胃腸の不調の原因に
1年半前、筋肉をつけたくて昼食をしょうが焼きやハンバーグなどの肉料理の定食に恐る恐る変えた。すると、予想外に胃の不調が全くなくなった。夕食時にはすっきり空腹で、コーヒーもOKに。人間ドックでよく言われた「胃の粘膜に炎症の跡あり」は、今年は「とてもきれいです」と改善。腹囲も合計8センチ減り、20代の頃と同じ体形になった。
「新宿溝口クリニック」の溝口徹院長によれば、記者は典型的な「グルテン過敏症」が考えられるという。グルテンは、小麦、ライ麦といった穀物の胚乳から生成されるタンパク質の一種。うどん、パスタ、パンなど、主に小麦を原材料とする食品に多く含まれている。
「グルテンは特異的なアミノ酸配列を持っており、その中にはプロリンというアミノ酸が含まれています。プロリンを多く含むアミノ酸配列は人間の消化酵素では分解できず、胃腸に残る。これによってグルテンに過敏な人は胃腸粘膜に炎症が起こり、胃もたれ、胃の膨満感、胃痛、下痢、便秘といった胃腸の不調の原因になるのです」
だれにでも問題があるわけじゃないが、グルテンの摂取量が多い人ほどリスクが高くなる。
「持続的に腸の粘膜の炎症を起こすと、炎症物質サイトカインが大量に放出されるようになり、脂肪細胞を肥大化させて太りやすくなる。また、肝臓に負担をかけて脂肪肝の原因になりますし、脳に運ばれて細胞に影響し、イライラや情緒不安定などを引き起こします」
■「グルテンフリー」で改善を実感
SEのAさん(40代)は、溝口院長の外来で、日中の体のだるさ、眠気、集中力低下、うつ状態を訴えた。いくつかの検査からグルテン過敏症が疑われ、徹底した「グルテンフリー」(グルテンを抜く食事)を実施した。
すると、2週間もしないうちに、これまで17時を過ぎると仕事にならないほど疲労感で集中力が低下していたのが、22時すぎまで絶好調で働けるようになった。Aさんは心療内科でうつ病、パニック障害と診断され、薬も処方されていた。しかし、その薬を飲まなくても、うつ状態やパニック症状が出なくなったという。
「グルテンフリーを実施するまで、彼は会社帰りに菓子パンなどを買うのが習慣でした。それらをやめたので、体重も激減しました」
グルテン過敏症を判断するには、保険適用外の血液検査がある。しかしそれよりも簡単なのは、試しにグルテンフリーを2週間持続してみることだ。不調が改善されれば、グルテン過敏症の可能性あり。
「グルテン過敏症なら、本人の体調を見ながらグルテンの摂取を調整する。グルテンは、摂取しなくても健康に害のないタンパク質ですから、完全フリーでも大丈夫です」
基本は、小麦、大麦、ライ麦を使った食品を減らせばいい。
グルテン過敏症の人は、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品に含まれるカゼイン過敏症でもある。分子構造が似ているからだ。カゼインの摂取も避けたほうがいい。
なお、グルテン過敏症は、摂取後すぐに激烈な症状が出ることもある小麦アレルギーとは発症のメカニズムが違う。また、血糖値の急激な上昇を避けるために行われる糖質制限とも違うので混同してはいけない。