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【眼の羊膜移植】けいゆう病院・眼科(神奈川県横浜市)

けいゆう病院・眼科の川村真理部長
けいゆう病院・眼科の川村真理部長(提供写真)
癒着で眼球が動かない人に朗報。病院で採取した羊膜移植が可能

 同科は網膜硝子体手術と並び、「羊膜移植による眼表面再建」を積極的に行っている。日本組織移植学会の「羊膜バンク」に認定されており、自施設で採取した羊膜を治療(移植)に使うことが可能だ。同科の川村真理部長が言う。

「羊膜は胎盤の一部で、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときに包まれている卵膜(3層)の最も内側にある薄い半透明の膜のことです。当院は周産期医療が盛んです。産科の協力で、妊婦さんに同意を得て帝王切開直後の羊膜を提供していただいているのです」

 通常、羊膜は法律に従って胎盤組織と一緒に廃棄処分される。しかし、厚さ0.1ミリのしなやかで丈夫な羊膜には、昔から抗炎症作用、細胞の増殖や癒着、瘢痕形成を抑える働きなどがあることが分かっている。

■2014年には羊膜移植が保険適用に

 しかも、拒絶反応を起こしにくい特徴があることから、以前からヤケドをした皮膚の再生や開腹手術後の内臓の癒着防止などに使われていたという。

「国内で羊膜が眼疾患の治療に使われ始めたのは1990年代後半からです。当科もその頃から使用してきました。その後、2014年に羊膜移植が保険適用になったことで、羊膜バンクや認定医の整備が始まったのです。ですから羊膜移植の歴史は古いのですが、あらためて見直されているのです」

 保険適用となる眼の疾患は、眼表面の腫瘍性疾患、スティーブンス・ジョンソン症候群、角膜穿孔、角膜潰瘍など10疾患ほど。頻度が多いのは、白目(結膜)の組織が黒目(角膜)に延びてくる翼状片で、特に再発した場合に羊膜移植を行うと治療効果が高いという。

 そして、これらの疾患によって障害された眼表面を再建する羊膜移植には、大きく3つの使い方があるという。

「1つは、眼表面の穴の開いた部分を羊膜で塞いで、周りの組織と同化させる方法。それから、病変部を羊膜で覆って、そこを足場として眼の上皮細胞を再生させる方法。傷の部分を羊膜で一時的に覆って炎症を鎮め、正常な角膜上皮の再生を促す方法もあります。これらの移植法を疾患や病態によって組み合わせて使うのです」

■48例中、合併症はゼロ

 移植は局所麻酔で行われ、所要時間は10~20分の場合もあれば、1~2時間かかる場合もある。日帰りでできるが、翌日の検査があるので、遠方患者であれば1泊2日になる。

 川村部長は、羊膜移植の有効性を「魔法の布みたいですごくいい」と表現する。症例データが残る03年からの48例中で、再発したのは翼状片の1例だけ。拒絶反応が非常に起こりにくいので、何らかの合併症が起きた経験は一度もないという。

「翼状片は、再発を繰り返すうちに癒着して、眼球が動かなくなる人もいます。また、いろいろな原因でまぶたと眼球がくっついてしまう瞼球癒着という病態では治療をあきらめている人も多い。羊膜移植という選択肢があることを、もっと多くの患者さんに知ってもらいたいと思います」

■データ
 一般財団法人神奈川県警友会(神奈川県警職員で構成)が運営する総合病院。
◆スタッフ数=常勤医師7人(うち日本組織移植学会認定医2人)、非常勤医師3人
◆年間初診患者数(2014年)=1559人
◆年間手術数(全体)=約1600例
◆羊膜移植(03年~)=48例