病気に潜む「脳の異常」

うつ病は「マインドフルネス」で負の堂々巡りをストップ

 ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズら、世界の名だたる有名人が実践している「瞑想」。海外では「マインドフルネス」と呼ばれ、NHKの「おはよう日本」(2014年11月6日)や欧米の有名雑誌で特集が組まれるほど関心が集まっている。

 もともとは、米国の研究者が、集中力を高めるトレーニングとして提案した座禅だが、現在は、企業のストレス対策や病院の治療の現場でも使われている。どういうものなのか。

「聖路加国際病院」(東京都中央区)リエゾンセンターの保坂隆・精神腫瘍科部長の診療室で、コンピューター画面の動画を静かに見つめているがん患者。動画には、雲が浮かび流れていき、やがては消えていく様子が映されている。2年ほど前から保坂部長が導入している「マインドフルネス認知療法」の一例だ。保坂部長が言う。

「マインドフルネスは、自然に湧き上がってくる自分の思考パターンや感情を観察の対象とします。客観的に見つめることで、自ら考えを変えようというのです。いま、この瞬間で起きていることに集中して、ありのままの事実を受け入れることが大切です」

 例えば、がん患者は「暴飲暴食などムチャな生活をしなければよかった」といった過去の後悔と、「治療費が尽きたらどうしよう」などといった将来の不安にさいなまれ、うつ状態に陥りやすい。そして、「がんになった」→「がんになって死ぬのは悔しい」→「がんにさえならなければ、こんなことで悩むことはない」→「しかし、がんになってしまった」という「負の堂々巡り」の思考パターンに陥る。

 マインドフルネスでは、このような負の考えが通り過ぎるのを眺め、過去や未来ではなく「今ここ」だけに集中して、「負の堂々巡り」をストップさせる。

「今ここ」だけに集中する「マインドフルネス認知療法」は驚くべき効果をもたらす。英国オックスフォード大学の研究者が、うつ病再発経験者を対象に2年間にわたり「薬物療法を行う群」と「マインドフルネス認知療法の群」とを比較したところ、同等の効果が得られたという。

 また、米国ハーバード大学の研究によると、8週間のマインドフルネス認知療法を施し、その後も追跡研究を行ったところ、不安やイライラのもとになる扁桃体が縮小したとの報告もある。

「瞑想に、うつ病を治す力があるのは事実です。何十年も瞑想を続けている瞑想の達人の脳波研究では、高振幅脳波が現れたり、MRI検査では、脳の前頭皮質等の体積の増大を確認した研究があります。脳そのものの構造を簡単に変化させるのは難しいけれど、機能を変えることは可能なんです」

「考え方のクセ」さえ変えれば、脳は自分の力で作り変えられるのだ。